たかがサンドイッチと呼ぶにはグルメ過ぎる逸品 © Frédéric Raevens
地元産の新鮮な食材を、地産池消で楽しめば、環境にも美味しい…そんなコンセプトのスローフード・サンドイッチ店『ピストレ』がブリュッセルにオープンし、 人気を呼んでいる。たかがサンドイッチで?と馬鹿にすることなかれ。欧米人にとって、サンドイッチは伝統的にも日常的にも軽食の代名詞。日本でいえば、蕎 麦屋かラーメン屋のようなものだが、土台となるパンをはじめ、「中に詰める具」の産地や味にとことんこだわるサンドイッチ店は珍しい。ベルギー中から調達 された「美味しいもの」が、店頭に並べられ、選ぶお客を唸らせ、迷わせる。
明るい赤と白の店構えは気取らない © Michiko Kurita
サンドイッチ「文化」は、実は、日本人が思う以上に幅広く奥深い。特にベルギー人は、もともと周辺国と比べても、サンドイッチそのものにかなりこだ わりがある。食べる直前に、サンドイッチ屋に出向き、店員さんと対面販売で話しながら、好みのパンの種類を選び、バラエティ豊かな詰めモノのレパートリー の中からメインの具材を選び、それに、好みの生野菜やチーズを選んで入れてもらう。
マヨネーズ、バター、マスタード、ケチャップ、塩胡椒などの調味料も、少しだけとか、多めにとか注文をつけて自分好みのサンドイッチに 仕上げてもらうのが正統派。作り置いてラップされ、店頭に並んでいるサンドイッチなぞ、急いでいる時にしか手を出さない。具の湿り気でパリパリ感がなく なったパンなどとうてい耐えられないというわけで、昼時には行列ができ、待たされてしまう。そうは言っても、今では、どの店も、業者からありきたりの詰めモノを何種類か仕入れて並べている場合がほどんど。というわけでオリジナリティはそれほどでもない。
普段着グルメの選び抜かれたベルギー産が並ぶ © Michiko Kurita
もっとも標準的な具といえば、なんと言っても普通のハムとチーズ(ゴーダチーズが一般的)。その他にベルギーで定番なのは、チキンのカレーマヨネー ズ和え、小エビのサラダ、生牛ひき肉のタルタルステーキ(ベルギーでは「フィレアメリカン」と呼ぶ)、カニ(といってもカニ風味かまぼこ)のサラダ、ミー トローフか肉団子の薄切りといったところだ。サンドイッチに使うパンはといえば、フランス・パン(バゲット)が標準。しかし、ベルギー人が郷愁を込めて愛 するパンといえば『ピストレ』。この店の店名でもあるピストレとは「外はカリッ、中はふっくら」の丸パンだ。では、この店では何が「売り」なのだろう。
まずはこの丸パン。こだわりのパン職人イヴ・グンス氏が、この店のために開発したレシピで、丹精込めて日に二度焼き上げる。これに、グルメ料理界を 牽引してきたミシュラン星付き有名シェフらが、最高の中身の具材を選定。たとえば、世界に冠たるフランス料理店『コム・シェソワ』のカリスマ・シェフは、 この店のために、フィレアメリカン(タルタルステーキ)とピクルスの最高級品を紹介。名門『ヴィラ・ロレーヌ』からは、イチオシの手剥き北海小エビを導入 したという具合だ。
この店用の看板丸パン『ピストレ』を焼くイヴ・グンス氏 (c)Frédéric Raevens
プロの世界では知らない人はいないという養豚業者からの塩蒸し豚、高級店御用達のアルデンヌ産の手作り生ハム、正真正銘のカニ肉を使った特製カニサ ラダなど、厳選された具のバラエティは20種類を超える。バターやチーズ、生クリームといった乳製品にも、オイルや香辛料にも、さらにデザートや飲み物に も選びに選んだ素材とベルギー最高の職人による名品だけを集めている。
さらに、現代人が忘れかけている伝統のスローフードを思いださせることにも情熱を燃やす。たとえば、Bloempanch, Kipkap, Tête Presée, Cervelas, Pipe d’Ardenne, Rollmops, Bon potjesvlees等など、ベルギー人でもほとんど何のことかわからないノスタルジックな響きのある「お袋の味」は、超ローカルな「ベルギー伝統の 味」ばかり。温故知新――思わぬ発見があるのも嬉しい。
開店以来、ベルギー中のメディアやグルメ評論家が注目したのも無理はない。創業者のヴァレリー・ルプラさんは、料理の世界でプレス担当を歴任してき たプロ中のプロ。ベルギーの食材や調味料、シェフやパティシエなどの職人、料理機具や道具類に精通し、知らない人はいないほどの有名人だからだ。
『ピストレ』のある場所は、ちょっとスノッブな山の手サブロン地区と伝統的な下町マロール地区をつなぐ中間地点。赤と白で統一されたシンプルで居心地の良い店は、「もち込みOK」のサインすら掲げ、気取りのカケラもない。
でも、ご注意。フランス人に「ピストレ」に行くなんて言ったら、物騒だと驚かれるかもしれない。ピストレとは、仏語ではピストルのこと。この店に足を踏み入れた途端、ベルギー伝統の普段着グルメにすっかり打ちのめされて身動きもとれなくなってしまうかもしれない。
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Pistolet-Original 公式ページ
グルメなサンドイッチたち ©Frédéric Raevens
(2014-10-28 PUNTA掲載)
ここ数年、欧州の多くの都市で、市が運営する時間貸し自転車システムや、公共交通機関と連携するカーシェアリングが登場している。瞬く間に巷のあちこちで、貸し出しステーションやそれらを使って快走する人々を見かけるようになった。
街中で急に見かけるようになったZenCarの貸し出しポイント © Michiko Kurita
行政にとっては、渋滞緩和対策や駐車場不足に有効というわけだが、利用者にとっては何よりも経済性がありがたい。データによれば年平均4500ユー ロ前後(約60万円)にも上る自動車の維持費を節約することができるという。ベルギーでは、2002年に登場した都市型カーシェアリングCambioが、 今ではベルギー国内ほぼすべての都市で営業し、車両数1500台、登録者数5万人(うち約半分は企業顧客)へと成長。ドイツ、アイルランドにも進出中だ。
カーシェアリングが世間で充分知られるようになった2011年、ブリュッセルでは、欧州で始めての電気自動車(EV)だけによるカー シェアリング『ZenCar』がスタートした。「エコノミー&エコロジー」。経済的な上に、地球環境保全にも貢献できるとなればベター。スマートカーやル ノー・TWIZYなどの超小型で遊び心のある車種から、業務用のワゴン車やBMWまで取り揃えて個人需要と企業需要の両方にアプローチする。
人口120万の小さなブリュッセルだが、EU諸機関の他、1000以上の国際機関が集中し、その山の手地区には、環境に敏感なコスモポリタン市民 や、社会的責任に意識の高い企業が多い。『ZenCar』はこうしたターゲットに受けて好調に伸びている。2014年現在、市内26ヶ所の貸し出し拠点を 持ち、電気自動車50台、登録利用者数約5000人にまで成長した。
持続可能な発展を提唱する欧州連合諸機関のお膝元であるブリュッセル市は、Green Mobility Solution(エコロジカルな交通手段政策)の一環として『ZenCar』の普及推進を後押ししてきた。起業資金の一部は市の投資公社SRIBが援 助。最初の2台を業務契約したのもブリュッセル市だった。
街中で見てそれとわかる広告塔でもある © Michiko Kurita
市営バスやトラム、市の時間貸し自転車システムと連動させて、利用者が『ZenCar』の貸し出し拠点までたどり着き易くし、市のホームページや広 報ツールでその利用を推奨する。毎年一度のブリュッセル市No Car Day(今年は9月21日(日))でも、市営貸し出し自転車Villoとともに、『ZenCar』のプロモートに協力する。
市営貸し出し自転車Villoとの連携がすごい© Michiko Kurita
しかし、利用者側から見ると、まだ問題点は少なくない。その第一は、80〜100kmという走行距離の限界だ。欧州中の充電ステーションをネットで チェックできるサイトなどもあるが、ベルギー国内でも、ブリュッセル他いくつかの都市以外では、まだ多いとは言いがたいので、走行可能距離はかなりのネッ クになる。利用料では、先行する普通自動車によるカーシェアリングと比べても、割高感は否めない。しかし、ターゲット層に伝わりやすいSNSを駆使して情 報拡散し、同時に、ブリュッセルの局所的なマーケティングで地道にアピールし続けてきたのが功を奏して、少しずつ成長。
EVシェアリングに先行して定着したカーシェアCambioのレンタル拠点 © Michiko Kurita
料金体系も導入当初よりはかなり改善され、プリペイド式なら登録料金も不要。お得なお試しパッケージや、新規顧客紹介キャンペーン(紹介した人もさ れた人も特典Kmがプレゼントされる)などを実施して、利用客を着実に増やしてきた。『ZenCar』なら市内や空港の駐車場に専用スペースが確保されて おり、無料で駐車できるメリットも大きい。
しかし、何よりも宣伝効果が抜群に高いのは、見てそれとわかる車体と拠点数の急増そのものだ。普通自動車のカーシェアリングでは、レンタル車である ことが露呈されないように装われているが、『ZenCar』では、緑と白の車体でむしろはっきりと主張する。貸し出しステーションでチャージ中でも、街中 を走行している時も、まさに車体そのものが広告塔だからだ。「近頃街中で『ZenCar』を見かける度合いが増えた」と感じている市民は筆者だけではない はずだ。「車も環境もシェアするよ」と自らアピールしたい環境派都会人や企業にとって、EVカーシェアリングはうれしい選択枝となっているようだ。
日本でも、さいたま市でEVカーシェアリングの実験が始まるようだが、走行距離での制約がきついだけに、あらゆる需要を掘り起こすには、利用目的に あわせたバラエティある車両を取り揃えたり、認知を高めるためにコミュニケーションに趣向を凝らしたりという必要がありそうだ。
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『ZenCar』公式WEBサイト
ブリュッセル市が推進するレンタル自転車Villoとも連動するZenCarのロゴ
© Michiko Kurita
(2014-10-01 PUNTA掲載)
その名はまさに「免許ナシで乗れる自動車」(仏語でvoiture sans permis)、欧州の一部で、こんな自動車がマジに車道を走っているのをご存知だろうか。
街で見かけるカワイイAXAM © Michiko Kurita
見るからにかわいらしく、赤・黄・青などの原色が多用され、ナンバープレートの代わりに「Hello Kitty」とか、「Sara」なんていう女の子の名前が書いてあったりする。「え?本当にこんなオモチャみたいなの走っていていいわけ?」と絶句してい るうちに、近所の高校の前には、こんな車がずらりと並ぶようになった。娘曰く「16歳から乗れる、イマドキの高校生の通学車よ。ねえ私にも買ってくれな い?」
自動車製造・認可規格を定めたEU法によれば、正式には『軽量原付四輪』(英語ではlight motorised quadricycle)と呼ばれるこのカテゴリーは、排気量50cc以下、最大出力4kw以下の原動機付き四輪車で、車両総重量350kg未満、最高速 度時速45km以下。高速や自動車専用道路は走れない。見かけはれっきとした『自動車』だが、定義上は別枠扱いなので、自動車税も、車検もない。それでい て、日本でいう軽自動車(排気量600cc以下)顔負けの機能性を備え、可愛くて、かっこよくて、16歳になれば免許ナシで乗れるとなれば、高校生の羨望 の的になるのは当然だ。
スポーツカータイプのカブリオレも人気 © Michiko Kurita
つい最近までは、このカテゴリーの運転条件が、EU加盟各国の裁量に任されていたため、フランスなど多くの欧州諸国では、本当にまったく免許不要 だった。しかし、昨今の急増でさすがに放置するわけにもいかなくなって、EUの免許制度が改訂され、昨年1月から「試験なしの教習受講」(原付二輪車相当 の『AM免許』と呼ばれるもの)が義務付けられた。それにしても、高校などで行われている交通安全講習と7時間程度の教習だけで運転できてしまうわけで、 「普通免許不要の自動車」には違いない。
このカテゴリーをリードするのはなんと言ってもフランスだ。中でも、フランスアルプスの麓サボア地方を本拠とし、30年の実績を持つAIXAM(エ グザム)が断トツで、急成長する欧州市場シェアの半分を占める。このカテゴリーでは必須ではないクラッシュ・テストも早くから実施して安全面での技術力を 高め、2000年頃からデザインや色の多様化を始めて大ブレーク。ディーゼルの2人乗りが主流だが、最近では、スポーツカータイプやカブリオレ、軽トラッ ク・ミニヴァン型の商用車、電気自動車にも発展させ、自前のレンタカー事業にも着手した。
ナンバープレート代わりに私の名前と★マーク。警察も取り締まりに難儀するわけだ
© Michiko Kurita
これを追従するのは同じくフランスのLIGIER(ジリエ)。かつてF1チームを率いたギ・リジエ氏が創業したメーカーで、車好きのテイストに応え るラインアップが売りものだ。その他にも、Chatenet(シャトネ)、JDM Automobiles、Heuliez(ウリエ)などフランス勢が目白押しだが、それにCasalini(カサリーニ)などのイタリア勢の名まえも見ら れる。
これらのメーカーは、フランスやベルギー南部、イタリーの他、欧州各国に市場を拡大中で、特に、地形的に坂が多く、都市で駐車スペースの問題が多い 南欧諸国(イタリー、スペイン、ポルトガルなど)や、旧東欧(クロアチア、スロベニア、ハンガリーなど)で快進撃を続け、今では、売り上げの7割以上が欧 州の自国外に輸出されているという。調査会社フロスト&サリバンの推計によれば、2007年の販売数は27,000台だが、10年後には少なくとも10倍 程度に達すると見込んでいる。
ベルギーの販売店によれば「原付四輪は、正に近未来のニーズにぴったり。超小型だから小回りが利き、駐車もラクラク。少エネだし、排気量が少ない分 大気汚染も少ない。それでいて、バイクに比べたら居住性や安全性は抜群。悪天候でも、寒い冬でも快適。うちの娘にせがまれて、自分でも扱いを決めたの さ」。確かに、出荷単位台数あたりの交通事故による死傷者数は、カテゴリー最低とか。もっとも、スピードが出せないから、大事故につながりにくいのは確か だ。
車好きに人気のLigierは元F1レーサーが率いる © Michiko Kurita
オートマ車がほとんど存在しない欧州では珍しいオートマ仕様。欧州の郊外住宅地や農村地帯では、公共交通機関が不便な場所が多いから、運転できない と行動が制約される。そこで、高校生の通学用、普通免許証が取得・継続できない高齢者や軽度身障者などを中心に爆発的に売れているのだという。
それにしても、かなりのニッチ市場。価格は1万ユーロ強(150万円)と決して安くないし、高校生の娘を持つ親としては、18歳までたった2年のた めにはかなりの投資だ。制限速度70kmや90kmが標準の欧州の一般道で、こんな車が増えれば迷惑千万。バイク感覚でどこにでも平気で駐車する若者ドラ イバーを、警官は取り締まりたくても「Hello Kitty」や「Sara」では、その術すらない。というわけで、ベルギーでは、今年5月以降の所有者には、ナンバープレートだけは義務化されたとか。
日本ではどこでも見かける箱型の日本製軽自動車は、欧州ではまったく見ない。代わりに、スマートカーやフィアット500などのコンパクトカーが定着する欧州。『原付四輪』クラスにも日本のメーカーは見られない。
とはいえ日本でも、農村需要やママさんドライバーなら高速に乗らない人も多いだろうから、「原付四輪」需要は意外とありそうな気もする。
どうみたって自動車の原付四輪カタログ © Michiko Kurita
(2014-08-13 PUNTA掲載)
PMG(プラスチックや缶)回収用のブルーの袋は、全国共通だ© Michiko Kurita
夏 休みに入ると、国外に住む日本人の多くが一時帰国する。海外生活で恋しくなるもののひとつが日本の食べ物だ。美味しさやバラエティはもちろんだが、芸術品 のような美しい包装にあらためてため息をもらし、店員さんたちが商品を包む様子にも見入ってしまう。これほど美しく凝ったパッケージング、包み紙や袋類は 欧州では見かけることがないからだ。
ベルギーのFost Plusは欧州のベスト・モデルとなった © Michiko Kurita
それもそのはず、EUでは1994年、加盟各国に対し、容器や包装を簡素化することや、その回収・再生の仕組みを構築することを義務付ける法律が出 され、リサイクル率の目標が設定された。その責任は容器・包装物を市場に出す立場にある者、つまりメーカー(と、それに準ずる輸入業者など)にあると決め られたのだ。
あれから20年。環境分野の先進国といえばドイツやオランダだが、EU28ヶ国中ベスト・モデルはベルギーと評価された。EU統計局の 最新データ(2011年)によれば、ベルギーは総合リサイクル率80%(容器包装重量1トンあたりのメーカー負担額約75ユーロ)を達成し、ドイツやオラ ンダの約70%(メーカー負担額約125EUR)を引き離して快走中。なぜベルギーがこれだけの成果を挙げられたのか――静かに注目を浴びている。
その成功の秘訣は、ただひと言「シンプルさ」に集約されるようだ。ベルギーでは、国内にたった一社Fost Plusという非営利企業を設立し、全国のリサイクルに関するすべてを統括させるやり方を選んだ。
秘訣はKISS, Keep It Super Simpleと語るFOST PLUSのスティーブ・クラウス氏 © Michiko Kurita
だから、分別回収のガイドラインは全国共通。カテゴリーは、1)紙、2)ガラス、3)プラスチック・缶類で、極めてシンプル。プラスチック・缶類 は、全国統一のブルーのビニール袋に入れるが、対象は飲料や洗剤などの容器だけでトレーもラップも回収されない。日本では、狭いキッチンにいくつも並ぶゴ ミ箱の前でいつも戸惑ってしまうが、それに比べると、実に単純。国内は一律ルールなので、旅先でも、友人宅でも共通だから説明も要らない。
リサイクルについてのPRやコミュニケーションを行うのもFost Plusの業務。子どもは学校で、分別ルールを教えられ、リサイクルについて学ぶが、そのための教育ツールもすべてFost Plusが制作・運用する。市民への啓蒙や教育ツール、分別ごみの回収スケジュールを伝えるカレンダーなども一括制作。今年のヒットは、スマホに無償ダウ ンロードできるRecycle!というアプリだ。居住地の分別ゴミ回収日をリマインダー設定できるし、周辺の「総合ゴミ棄てパーク」(ベルギーでは、こう したパークにゴミを持ち込んで自分で棄てることもできる)の情報も検索できて便利だ。筆者も早速ダウンロードして活用している。明日は「プラスチックご み」の回収日だ。
明らかな輸入パスタにも、洗剤やコーヒーにも、Fost Plus加盟マークがついている
© Michiko Kurita
さて、ベルギーでは、市場に容器・包装物を出している企業なら、メーカーも、輸入元も、小売業者であっても、Fost Plusに加盟しなければならない。たとえ、回収対象になっていなくても、その量に応じて負担金が算出される。メーカーの立場からすれば、県ごとに違うと ころに加盟する必要もないし、何社も比べて選ぶ必要もないので単純明快。
ベルギーは民族・言語・政治的に非常に複雑な国で、人口1000万の小さな国は3つの独立した地域政府と、10の州、500余りの小さな地方自治体 によって構成されている。しかし、リサイクルに関しては、地域政府は速やかに協調し、自治体が30余りの自治体群に権限を委譲して、Fost Plus一社と契約を結んだ。自治体群が収集・仕分けの業者を公募してFost Plusと一緒に最適業者を決定すると、その費用は「全額」Fost Plusが支払う。「一部負担」でも、「段階的」でもないから不公平感はない。
ちっぽけで複雑な国ベルギーは目立たない。国民は、現実的で、実践可能なことから始め、できるところを少しずつ発展させたり改善させたりして持続で きるシステムを造ることがうまい。もっともコスト効率の良いリサイクルを達成したベルギーは、自らの試行錯誤から培ったノウハウを伝授する「アドバイザ リー事業」も始めた。キプロス、イスラエル、ハンガリーなどがベルギー・モデルから学ぼうとしている。
市民がまじめに分別したゴミを、結局まとめて焼却したり、埋め立てたりしてほしくはない。
(2014-07-25 PUNTA掲載)
国民的期待のかかるRed Devils © Michiko Kurita
人 口1000万、メディアも世論も、民族や言語によってバラバラに分かれている小国ベルギーでは、日本やアメリカのように、国全体で流行るものや、盛り上が るイベントはほとんどない。そんなベルギーが、今、珍しく燃えている。ブラジルで開催中のサッカー・ワールドカップに、12年ぶりで出場するベルギー代表 チーム「Red Devils」(レッド・デヴィルス、赤鬼の意)に期待がかかるからだ。
盛りだくさんのRed Devils グッズたち © Michiko Kurita
Red Devils(実際ベルギーでは、仏語話者はDiables Rouges、蘭語話者はRode Duivelsと呼ぶので、英語Red Devils(赤鬼)と呼ばれるのは国外だけ)は、日本・韓国共同開催の2002年、日本チームと初戦を戦ったので、記憶にある方もいるかもしれない。 FIFAワールドカップには第1回から3大会連続出場の古参で、90年代には安定した実力を持っていたが、その後低迷し、FIFAの世界ランキングでは 70位前後まで転落。ベルギー人の間では、ひいきの地元チームは応援しても、代表チームには見向きもしないほど見放されていた。
ところが優秀選手がここ数年続々と登場し、外国の強豪人気チームに宇宙的な契約金で引き抜かれて活躍するようになると様相は一転した。 エデン・アザール(チェルシー)、ティボー・クルトワ(アトレティコ・マドリード)、ロメル・ルカク(エヴァートン)、ヴァンサン・コンパニ(マンチェス ター・シティ)、アクセル・ヴィツェル(ゼニト・サンクトペテルブルク)などをはじめ、ベルギー代表チームのうち、国内チームでプレーする選手は数名しか いない。最新(6月5日)のランキングでは11位。昨年は5位まで浮上したこともある。
スーパーの店頭を飾るパネル © Michiko Kurita
さて、ここまで盛り上がっているのは、チームが強いからばかりではない。実は、ベルギーサッカー連盟は、このブラジル大会に照準を合わせて、幹部人 事を一新。気鋭の代理店2社を採用して、コミュニケーション・マーケティング戦略を抜本的に改めた。「選手がセレブ化することによって失ってしまった地元 ファンとの絆を、SNSなどを使って構築しなおした」とは、キャンペーンを担当する広告代理店Boondoggle(ボーンドッグル)。同社は2009年 国内の『ベスト・エージェンシー』に選ばれた。
たとえば、FBを用いて呼びかけた親善試合スタジアムでの、音や色を駆使したフラッシュモブは、ファンと選手の一体感醸成に大成功。キャンペーンの トーンはあくまで「ベルギー的」。つまり、一流嫌いで皮肉屋なベルギー人気質をくすぐる「ちょっと自嘲的で、B級的」やり方がいい。契約金数十億円級のス ター選手も、まったく自然体でSNSに書き込む。昨年11月、ベルギーサッカー連盟は、そのクリエイティブ、イノベーティブ、インサイトフルなSNS利用 を利用したキャンペーンが評価され、英国で開催されたフットボール・ビジネス・アワードで、「SNSベスト活用賞」を受賞した。
こうして、数年前まで誰も見向きもしなかった企業スポンサー枠は満員御礼。コカコーラ、BMWの他、ベルガコム(日本のDOCOMOに相応)、ジュ ピラー(世界一位のビール会社AB-Inbevの国内主要ビール銘柄)など錚々たる名前が続く。高級車BMWがサッカーをスポンサーするのは世界でも始め てというが、ファミリー志向、スポーツ・レジャー志向にイメージシフトを図る企業戦略にはぴったりで、充分な費用対効果があるという。後援契約、ブランド 使用契約、テレビ放映権などの収入を含めると、ベルギーサッカー連盟の年間予算の4分の1以上を稼いでいるという。
スーパーの店頭に溢れるRed Devilsグッズ © Michiko Kurita
『Red Devils』は「ベルギー」を象徴する唯一無二の「ブランド」にまで育ったと分析する業界人や社会学者もいる。冒頭に触れたように、ベルギーには、国民 が一丸となって情熱を傾けるような象徴がないからだ。高校野球はないし、オリンピックには無関心。テレビ番組やCMで食べ物や飲み物が大流行、行列ができ るなんてありえない。そんなベルギー社会が、今始めて、黒黄赤の三色に包まれ、Red Devilsグッズが巷に溢れている。
そこで密かに期待したくなるのが、政治的効用。ベルギーは、実は、分裂寸前。蘭語を話す北部のゲルマン系民族と、仏語を話す南部のラテン系民族の折 り合いが悪く、4年毎、サッカーWCと同じ年に巡ってくる総選挙の度に分裂が現実味を帯びる。今年5月末に行われた総選挙でも、北部では分離独立を掲げる 極右政党、南部ではこれに相反する社会党がそれぞれ大勝し、組閣には前回以上の難航が予想されている(4年前は世界記録の541日)。いよいよRed Devilsも最後になるかと庶民の心は実は曇りがちなのだ。でも、社会学者は冷ややかだ。フランスやスペイン代表チームが優勝した時でさえ、多少の経済 効果はあっても、政局を好転させるほどの効用はなかったと。
初戦、対アルジェリアは17日、その後、22日対ロシア、26日対韓国戦と続く。グループリーグを突破して、分裂を憂える国民の心を、たとえ一時的にも、盛り上げてくれるだろうか。
▼スター選手とファンを繋ぐ「ベルギー的」アクションを先導するFC、その他のサイト
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Belgian Red Devils Facebookページ
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Belgian-team – Diables rouges
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ベルギーサッカー連盟 公式サイト
道行く車のバックミラーも?© Michiko Kurita
(2014-06-16 PUNTA掲載)