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いるんです! 女性ブルーマスター
醸造なんて所詮、男の仕事と思っていません? でも、いるんです、醸造界のマドンナ。カッコイイ若手社長紹介の次は、女性陣の活躍を紹介しないわけにはいきますまい。
歴史と伝統を誇るベルギービール醸造界。その名球会とでも言うべきベルギービール騎士の会(Chevalerie du Fourquet des Brasseurs (注1))の現会長は、実は、Ann Lefebvreさん(Lefebvre醸造所(注2) )という女性経営者。9リットルの超大型マグナムボトルで有名なSt. Feuillien醸造所(注3) の女性社長Dominique Friartさんも騎士の一人。彼女は2005年、あらゆる業種の中から選ばれる女性経営者賞の栄冠にも輝いた辣腕経営者。また、この会には、Rosa Blancquaertさんという醸造界の女神みたいな人もいます。彼女は、これまでも何回か話題に出てきた伝統醸造所Liefmansが何回目かの経営危機に直面していた数十年前、その立て直しに成功したベルギービール界の重鎮。彼女らは皆、醸造家一族に生まれ、経営者としての才覚を認められ手腕を発揮してきた人々。一方、今日では、ラボや生産管理場面で活躍する女性陣も少なくありません。彼女らの多くは、ベルギー各地にある醸造エンジニアコースを持つ専門学校や大学などで、微生物学、発酵学、食品製造工学などを学んだエンジニアです。ただ、前者の女性経営者達も、また後者の女性エンジニア達も、彼女ら自身が実際に仕込みを担当するブルーマスターというわけではないのです。家業を継いで女性社長となっても、あるいは、家業の影響で発酵学を学んでも、跡取りとなって家業を継ぎ、同時に自らの手で仕込む女性はごくわずか。ここで紹介するのは、その希少の中の希少、正真正銘の正統派ブルーマスター兼醸造所社長なのです。
その名は、An De Ryck(アン・デゥレーク)さん。1886年創業のDe Ryck醸造所(注4)4代目当主。醸造所の入り口右側に薬局を経営する薬剤師オメールさんの妻。一男一女(それぞれ23歳と26歳)の母。辣腕社長のイメージはなく、ヘビーデューティーな醸造業にも似つかわしくない小柄で素朴なかわいらしい人・・・
De Ryck醸造所の伝統は、初代のグスタフ氏(アンさんの曾おじいさん)がドイツ・ブレーメンの醸造所で修行したことから、ドイツ純粋令(注5)に準拠しモルトとホップだけを主原料とする苦味の効いたビール。ベルギービールとしては極めて珍しい。その後、グスタフさんの子供3人が家業を共同で継いだのですが、3人のうち二人はジュリアとヴァレリーという姉妹。女性醸造家の伝統もすでに2代目からあったというわけ。3代目となったアンさんの父ポールさんは、かわいい娘にだけはなんとしてもこんな苦労をしてほしくないと、アンさんが醸造に興味を持たないようにできる限り遠ざけたというのに、「禁じられれば禁じられるほどやりたくなるのが子供の常」とはアンさん弁。こうして、アンさんは、ポールさんに反対されながら、ゲントにあるSt. Lieven専門大学にて醸造エンジニアを取得。その後、ドイツ・ババリア地方の4つの小さな醸造所、そして英国の2つの醸造所で修行し、とうとう25歳で醸造家としてスタート。以来、醸造家として経営者として才覚を発揮することになったのです。
ほぼ紅一点の女性ブルーマスターなので、いつになく肩入れして詳しく書いてしまいたくなりました。製品面では、創業以来伝統のSpecial De Ryck(地元では定番!)を造り続ける他、いくつかあった銘柄を初代の屋号であったArend(鷲)という銘柄名で4品目のシリーズに統合して再導入。女性らしいチェリービールKriek Fantastiekやビールをベースとする蒸留酒Bierblommeにも挑戦。ビールに合わせたへーゼルナッツ入りのチーズ、ビール入りチョコレートなど、女性らしい製品開発を続けてきました。経営面では、老朽化した建物や設備に積極投資を図り、若い従業員を子育てのように上手に使い、小さいけれど地元密着型のきめ細やかな舵取りを成功させてきました。
ここまで4代、曾おじいさんの代から続いてきた醸造業。お子さんに継いで欲しいのが本音? と思いきや、言語療法士の資格を取得したにもかかわらず、昨年夏から醸造所経営にかかわり始めた長女のマイケさんが家業を引き継ぐことに、アンさんは驚くほどドライ。「パッション(情熱)がなければ、とてもできる仕事ではないから」---こう語るアンさんの穏やかな笑顔は醸造家のきつさを隠しはしないのです。醸造家の一日は、最も暗く寒い真冬ですら早朝4時から始まり、子供の休暇などに合わせて長期休暇を取ることもままならない。それでもこうして夫婦供に休みなく働きながらも2人の子供を育てることができたのは、完全な職住一致環境があったから、とアンさん。代々続く醸造所の一角にご主人が経営する薬局と4人家族のマイホーム。子供達は学校から帰ると薬局と醸造所の間の中庭で遊び、醸造所の事務所で会計簿をつけながら宿題を見てやることもできたからね、と。
De Ryck醸造所のあるHerzele村は、ブリュッセルからゲント方向に向う途中AalstからOudenaarde方向へ15キロほど行ったところにあり、ベルギー名物シコンの名産地。全国的には知られていませんが、地元ではカーニヴァルの行列もさかん。De Ryck醸造所は、村の中心にある教会の反対側にあり、村に残る2つの伝統的な風車とともに、村の観光スポットとしてツアーで巡ることができるほか、グループで事前に予約すれば、アンさん自らのガイドで見学することも可能。ブリュッセル周辺でアンさんのビールを調達できるのは、ごく一部のビール専門ショップやビアカフェ(注6)に限られるので、ぜひ気持ちの良い季節に、ドライブがてらこんな田舎の村を訪れて、醸造所併設の小さなビアカフェでアンさん自慢のビールやビール・シュナップを飲み、ビール入りチーズやチョコレートをゲットしませんか?ベルギー伝統醸造業の母のようなアンさんのやさしい笑顔に見守られながら。
ところで、昨年11月号で予告した『Toer de Geuze(グーズビール巡り)』、2009年は4月26日(日)開催となりました。伝統醸造法にこだわるグーズ・ランビック保存会HORALから、8つの醸造所(Boon, De Cam, De Troch, Timmermans, Lindemans, Drie fontainenなど)がこの日一斉に一般公開。もちろん、お気に入りを自力で1~2件巡ってもよいですが、飲酒運転したくない人、車のない人には、醸造所間を巡るバスがHalle駅などから8ルート(それぞれ4~5醸造所)運行されます。詳しくは(参加醸造所の所在地、バスのルートや予約についても)HORAL(注7)のホームページ、またはHORAL統括役のDrie Fonteinen醸造所Mr. Armand Debelder(注8)まで。2年に一度しか開催されないので、お見逃しなく!
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<脚注>
注1:http://www.beerparadise.be/emc.asp?pageId=573
注2:http://www.brasserielefebvre.be/index.php
注3:http://www.st-feuillien.com/
注4:http://www.deryckbrewery.be/
注5:本シリーズ10月号でも解説。1516年バイエルン公国ヴィルヘルム4世により制定されたもので、麦芽とホップだけを主原料として発酵させたものビールとするとしたものでドイツビールを語る基準となっている。粗悪製品を排除し品質向上を目的としたとされるが、為政者の立場からは課税対象である麦芽をより多く使うように仕向けたものと考えられる。日本もこれに準拠している。
注6:ビール専門店Beer Planet www.beerplanet.eu, De Biertempel www.biertempel.be Delice et Capricesなど、専門のビアカフェではDelirium Café, Moeder Lambicなど。ただし、日本でゲットしたい方は、
http://www.belgianbeer.co.jp/lineup/list_fg_65_1.htm から
注7:http://www.horal.be
注8:http://www.3fonteinen.be/