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BRAVO! 若手社長達の奮闘に乾杯!
これまでは毎回カテゴリー別に取り上げてきましたが、今回は、少し趣向を変えて、ベルギービール業界の若手社長達の奮闘ぶりを少しご紹介してみましょう。
どこの世界でも、伝統的アルコール類は低迷傾向。健康志向や道路交通安全など、時代の風潮はアルコール業界には向かい風。従来、伝統的アルコール類を愛飲してきた世代は高齢化し、購買力も消費力もがた落ち。人口ピラミッドの逆転で、ただでさえ、希少になった若者層は、伝統アルコール飲料なんて古臭いものは見向きもしない。ベルギーにおけるビールは、日本における清酒と似たような立場に追いやられがち。市場規模が漸減する状況下で健闘するには、先陣を切って若者層を開拓するか、古臭いイメージが付着していない外国で「新奇でおしゃれな」飲料として売り込むか。こういう戦略志向を持ち込みぐいぐい実行できるのは、若手世代でならでは。
ベルギー人なら誰しも、家系図を少しさかのぼると、ビール醸造にかかわっていた親族が必ずというほど出てくる、という話は以前にも書いた通り。フランス人にワイン醸造販売業にかかわる人が出てくるのと同じ。数世代にわたり醸造業を営んできた家系では、親族間に事業権が分散して相続され船頭が多すぎて、経営の舵取りは困難を極めるというのはよく聞く話。普段は事業にかかわってもいないのに、投資だの、雇用だのには口を出してくる大番頭、小番頭が多すぎる。こうしてやむなく廃業に至った醸造所は数知れず。
一方、90年代以降、伝統的醸造業の中でたたきあげられてきた人材とは異なる新しいタイプの経営者達が登場。彼らは、醸造一族の血統を受け継ぎながら、大学や大学院で「経営学」や「微生物学・発酵学」等を学び、起業家精神を併せ持つ新人類。その何人かは、斬新な経営手腕で自社を飛躍に導くばかりか、醸造業界の中でもリーダーシップを発揮し、スマートでカッコイイ40代社長道を邁進しているのであります。そこで、強烈な私見と個人的趣味に基づいて選抜した3名をご紹介します。
その筆頭はなんといっても、Duvel-Moortgat社 <注1>のMichel Moortgat社長。彼は、1967年5月5日生まれの41才(月日まで知っているのは、私と同じ『子供の日』生まれ故)。日本のベルギービール界では、「醸造界の貴公子」とも異名をとるご覧の通りの風貌。創始者から数えて4世代目の三兄弟の末っ子。お母さんを早くになくし、男手ひとつで育てられた三兄弟はそれぞれ妻や子供たちと過ごす時間をきちんと大切にするマイホームパパでもあります。90年代初頭、私が初めて出会ったMichel氏は、経営権が親族内に分散し、難しい局面で父親時代の大番頭から経営を引き継いだばかり。若々しいというより、なんだか頼りないとすら感じさせる好青年でした。ルーヴァン、ゲント両大学で学び、MBAを取得したばかりの彼は、まずは親族内から経営権を買い戻し、決定権を行使できるまでに達すると、1999年、ベルギーのビール醸造所としては珍しく株式上場。『伝統のビールを最先端技術で』をモットーに、先端技術を駆使する近代醸造所への転進のために、積極的に設備投資し、従業員の若返りを図り、どこの広告代理店かと思うようなモダンなガラス張りオフィス。同社は今日、独立醸造所グループでは国内屈指<注2> の規模を持ち、醸造業界が低迷する中、斬新な輸出・海外戦略が毎年二桁成長を続け、堅調な伸びを保つ数少ない伝統的醸造所のひとつ。アメリカへは直接投資し、Ommegangという独自銘柄をも醸造販売。近年は、古い自社銘柄Vedettを白ビールで復活させ、若者向けのリローンチに成功。日本でも、銘柄DuvelやMaredsousが、そして、昨年からは、この白ビールの銘柄Vedettが導入され健闘しているので、ご存知の方も多いことでしょう。
Michel氏を始めとする同社の若手経営陣が『スゴイ』のは、自社経営の成功ばかりでなく、早くから『企業の社会的責任』という視点に立ち様々な分野で積極的に貢献しているところ。エコロジーにも早くからマジメに取り組み、製造用水の閉鎖循環などに知恵を絞ってきました。醸造界では、困難に陥った醸造所を傘下に入れ、伝統製法や銘柄、地元コミュニティの文化や雇用の保全に貢献<注3> 。また、「アルコールは健康に悪い」とのイメージを払拭するために、Michel氏は日ごろからどんなに忙しくても、出張先でも、週に3回のジョギングを欠かさず、ブリュッセル・マラソンには若手醸造業者を誘いあわせて必ず参加し、『アルコールと健康』の科学的研究基金への寄付を推進しています。
本業から離れては、音楽・芸術・スポーツ分野でのスポンサーや支援にも積極的で、特に、コンテンポラリー・アートや第三世界からの若手芸術家発掘・育成などに尽力。そして、最後にチャリティへの寄付。毎年同社への見学者数は約2万人。1人5EURの見学料で、気の効いたスナックをつまみに同社銘柄のビールを試飲し、お土産にDUVELビールセットをもらい、1EUR分はチャリティへ。こうして毎年約2万EURが様々な地元のチャリティに寄付されています<注4> 。
さて、Michel氏のMoortgat社をべた褒めしてしまいましたが、他にも卓越した若手社長としてぜひとも紹介したい人が二人――Het Anker醸造所<注5> のCharles LeClef社長と、De Halve Maan醸造所<注6> のXavier Vanneste社長。
Mechelen のHet Anker醸造所は、ベルギーでも最も古い醸造所のひとつなのですが、私が最初に訪れた10数年前には、お化け屋敷のような建物と触れば崩れ落ちそうな醸造機器。これを文字通り、不屈のハードワークで建て直し、1998年以降10年間で年間生産量を実に9倍にまで増強し、新たなHet Anker黄金期を迎えたのは、誰が何と言おうと5代目Charles社長の采配。98年、伝統銘柄Gouden Carolus Classicをフルモデルチェンジして再投入して以来、次々と新製品を加え、現在4品目による商品群に。輸出戦略が成功して、経営は軌道に。閑遊地を利用したホテルビジネスも当たり、資金繰りが改善すると、少しずつ老朽化した設備に手を入れ始め、現在、その完結に向けて大幅な改装工事中とのこと<注7> 。Charles氏がスゴイと思うのは、その粘り強く堅実な取り組み姿勢と実直で気取らない人柄。Charles氏も立派ながら、奥方との麗しき二人三脚、そして5人の子供たち(うち一人は、我が家と同じく重度障害児)との微笑ましいチームワークもお見事。メヘレン女性年を記念して奥方自らが仕込み始めたビール「マルグリート」も地道なヒット。昨年シリーズに投入されたばかりのホップの効いた新製品Hopsinjoor(つまりMr Hop)の名づけ親はお嬢さんとか。敷地内の一角にマイホーム。職住一致体制で稼業の復興に邁進してきた成果が今、堂々と花開いていると感動していしまうのは、私だけではないはず。。。。
最後に、閉鎖されていたブリュージュの名門醸造所を復活させたXavier Vanneste氏をあげましょう。
彼は、母方も父方も醸造一族というサラブレッド。しかしながら、母方Maes家が代々所有してきた醸造所は、1988年以来他の醸造グループの傘下に入り、その後2002年遂にその火を落としていた。。。。かつて、ブリュージュのお堀の内側には、33カ所もの醸造所があり、多くのビールが造られていたという。それが一つ消え、二つ消え、とうとういつしか母方Maes家が所有してきたStraffe Hendrik醸造所と父方Vanneste家が所有してきたDe Gouden Boom醸造所の2つに。私がベルギービール輸出の仕事を始めた20年ほど前には確かにこの2つの醸造所は健在だったのです。その後、追い討ちをかけるように、ブリュージュ市は段階的にトラックの城門内乗り入れを禁止し、事実上お堀の内側での「製造業」を不可能にしてしまう。とうとう、残る2醸造所は、伝統銘柄を他社に売却し閉鎖へ。ところが、銘柄を引き継いだ醸造所は、「ブリュージュ銘柄」としての正当性を失ったビールをうまくマーケティングすることができない。そこへ、さっそうと現れた救世主がXavier氏だったのです! 彼の血は、かつて醸造で栄えたブリュージュから、醸造の火を完全に落とさせてしまうことを許さなかったというわけ。観光都市ブリュージュの顔として、町興しの目玉として、伝統の醸造所の再興を市に働きかけ、見事に成功。旧Straffe Hendrik醸造所に残されていた老朽施設を購入し、小型トラックの制限付き乗り入れを可能にし、2005年遂に醸造を再開。Straffe Hendrik醸造所の三日月のシンボルマークを使ってDe Halve Maan(三日月)醸造所と命名。ハプスブルグ時代以来のブリュージュっ子のシンボルZotを銘柄名として、輸出市場、観光市場を狙ったユニークな新世代マイクロブルワリーとして好調なスタート。彼は醸造技術者でも、醸造所の息子でもなく、あくまで起業家青年実業家。戦略と交渉力の人。銘柄Straffe Hendrikを所有していた醸造所は一昨年倒産。これを買い戻し、クリスマスカードには、2009年 Straffe Hendrik, back in Brugge! あっぱれ、若大将!
(ベルギー日本人会会報 2009年3月号掲載)
<脚注>
注1:http://www.duvel.be/
注2:2008年11月時点で、醸造所グループとして国内5位、利益率ではマーケットリーダー。
注3:おかげで、今もMaredsous、Liefmans、Achouffeなどを賞味できるわけ。伝統銘柄や醸造所を買収する醸造グループは多々ありますが、創業者一族や地元コミュニティの意向を無視して醸造所を閉鎖したり、伝統の製法やレシピを合理化してしまったり、乱暴なやり方が多く、そんな中で同社のやり方は高く評価されています。こういう心意気を持っているのはHet AnkerのCharles社長もしかり。この記事を書いてる1月下旬、Duvel-Moortgat社が救済したLiefmans醸造所(2007年倒産)の銘柄のうち、Luciferを復活させようと、二社長の間で合意に達した様子。
注4:こうして私が主催するチャリティ『ネロとパトラッシュ基金』にも数年前、多大な寄付をいただきました。皆でぜひ見学に出かけ、チャリティに貢献しましょう! 会社や有志グループなどでの見学はホームページ(なぜかこれを書いている1月末、蘭語サイトしか機能していませんが)から申しこみできますが、毎年4月頃までには1年分いっぱいになってしまうので、お早めに。
注5:http://www.hetanker.be/
注6:http://www.halvemaan.be/
注7:2009年3月~6月まで大改装工事のため、醸造所見学および併設のカフェ・レストランの利用ができませんとのこと。新装オープンする醸造所、カフェ・レストランに乞うご期待!
http://www.duvel.be/