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ベルギービールの真髄『フランダースのレッドエール』
『ベルギービールの12ヶ月』もそろそろ折り返し地点を迎え、ベルギービール分類もこのあたりまで来ると「白ビール」「ランビック」「トラピスト」等に比べ知名度低下。かなりマニアックでないと「聞いたことないなあ」の世界かも。今月のテーマは、ベルギービールの真髄、これぞ国宝と呼びたい『フランダースのレッドエール』と、おまけで『ブラウンエール』。
ベルギービールのウンチク情報を意識しながら私流(おばさんは『私的』とは書きませぬ)にまとめれば、『フランダースのレッドエール』とは、「西フランダース地方で伝統的に造られてきた、真紅から茶褐色の色味がワインのようで美しく、オーク樽で長期熟成させたフルーティな酸味が特徴のビール」。代表銘柄は、RODENBACH、DUCHESS DE BOURGOGNEなど。その拘りは、何と言っても、「ボルドーワインを思わせる美しい色とオーク樽で長期熟成させた特徴的な酸味」。一度飲んだらその味わいは良い意味でも悪い意味でも忘れることはできますまい。。。 味わいがあまりに「濃い」ので、所謂ビール党には敬遠されるかも。
で、これに対し、『フランダースのブラウンエール』の方は、ウンチク情報に寄れば、「東フランダース地方で造られる茶褐色で酸味が特徴のビール」。代表銘柄は、LiefmansのOud BruinやGoudenbandとなっていますが、12月号『クリスマスビール』で詳細したように、Liefmans醸造所はたびたびの経営難の末、2007年とうとう倒産。現在、Duvel-Moorgat醸造所の傘下で再興されていますが、これらの伝統的ブラウンエールの運命はあやうい。Rodenbachから受け継いだ酵母菌株を用い、、、などとなっていますが、熟成がオーク樽なわけでもない。となると、西フランダース州か東フランダース州か位の違いになってくるけど、州が村おこし事業で対抗しているわけでもあるまいし。ベルギー在住歴数年の方なら、西フランダース州が、ベルギーの北西端、北海に面した一体あたりであることはご存知かと。人気ナンバーワンの観光地ブリュージュもあるし、E40に沿ってお気に入りドライブコースに入り易いところ。ところが、レッドエールが造られているあたり(Roeselare、Vichteなど)は同じ西フランダースでも、内陸のコルトレイク(Kortrijk)周辺。観光とは無縁の、おそろしい田舎・・・
一方、東フランダース州がどこかすぐにわかる人はかなりのベルギー通。東というのだから、ベルギー東部のドイツ国境近くかと思うでしょうが、それは間違え。正解は西フランダース州とブリュッセルを取り囲むブラバント州との間。ブラウンエールの代表地アウデナールド(Oudenaarde、代表銘柄Liefmansの本拠地)は、なんのことはない、西フランダース州のレッドエールが造られてい

るあたりの隣。従って、何州で、、、と定義すること自体無意味。というわけで、本来この2つのビールは兄弟のようなもの。ブラウンエールも含めて、「フランダース地方西部の内陸で造られる酸味が特徴のビール」位で括っておくのが無難かと。この兄弟、格別に面白いのは、レッドエールの方なので、以下、レッドエールについてもう少し詳細することにしましょう。
さてその代表格RODENBACH<注1> 。「ビアハンター」と異名をとった故マイケル・ジャクソン氏<注2> は、「世界一リフレッシングなビール」と絶賛。どうやら、その独特の酸味を、巨匠はリフレッシングと呼んだようなのですが、私には「喉越し爽やか」というよりは、むしろ「奥深い味わい」。その酸味は、独自の酵母株(ルーヴァン大学の醸造微生物研究室の調べでは20種類以上の菌類が含まれているとか)と、また長い歳月の間にオーク樽の内壁にも住み着いているという乳酸系の菌類の仕業。酸味に加え、タンニンももちろんオーク樽に負う。なにせ、特別の赤みがかった麦芽で仕込んだ麦汁が、オーク樽の中で18~24ヶ月も熟成を続けるわけで。他の上面発酵ベルギービールでは長くてせいぜい5~10週間。この常軌を逸した非生産性はランビック系ビールといい勝負。こうして国宝級の幻の複雑な味わいができあがるのであります。
こんな特別なビールを造るRODENBACH醸造所。創業一族は、ベルギー史をそのまま語るような、政治家、外交官、医師、作家、詩人、貿易商等を輩出した名門。そのひとりアレクサンダー・ローデンバッハ氏は子供の頃から目が不自由であったにもかかわらず、ベルギー建国にも一役かった優れた政治家で、レオポルド一世が戴冠して始めてバルコニーから民衆の前に現れたとき、その傍らにいたとか。ベルギーの醸造所の多くは二度の大戦中、侵攻してきたドイツ軍に散々な目に遭っているのですが、ここもしかり。戦後再興して国宝級手作りビール一筋では最大規模の醸造所として健闘していたものの、1998年とうとうギブアップ。醸造グループPALM<注3> の傘下に入り、ラベルデザインも一新し、ぞくぞくするほどの職人くささが切り落とされていく感は否めませんが、それでも、高さ5メートルもありそうな巨大なオーク樽が、約300個も並ぶその熟成蔵の眺めは圧巻。イマドキこの世から消えてしまった『樽職人』を自前で確保。空になった樽は、作業人が中に入りんで洗浄、さらに赤い鉄製の箍をはずして樽を解体し、厚みが5~10センチもあるオーク板の内側をほんの一ミリほど削りとり、再び組み立てて葦と蜜ろうで隙間を埋め元通りの樽にするという。なんたるオルガニックな行程よ。。。
現在、商品は2種類。18~24ヶ月熟成させた古酒を1次発酵後の若ビールに20~30%ほどブレンドして飲みやすくしたRODENBACH(クラシックあるいはオリジナルと呼ばれる)と、若ビールを混ぜないRodenbach Grand Cru(いくつかの樽の中身をブレンドして味の均整をとりますが、、、)。創業者の名を冠したアレクサンダー(サワーチェリーを漬けたビール)は、近年生産中止となり、マニアックなレアもの好きの格好のターゲットに。
『ついでに』行くにはあまりに回りに何の見所もない立地。でも、数あるベルギービール醸造所の中で、ぜひお薦めしたい醸造所のひとつ。数百の巨大なオーク樽に圧倒されながら、その中に眠るビールのひそやかな息遣いを感じてほしい。70年代にお役目を終えた製麦炉の塔が、今でもほぼ完全な形で敷地内にその勇姿を見せている。経営がPALMの手に移ってから改装などで一時期見学不可となっていましたが、サイトを見る限り、どうやら再開している様子。それも、見学だけではない、ビールクイジーヌと合わせたグルメコースなどもありそう。それもそのはず、RODENBACHは料理との相性もよく、ビールクイジーヌには定番のアイテム。
規模はずっと小さいながら当代の経営者姉弟が健闘しているのが、Verhaeghe醸造所<注4> 。最近、売り上げを確実に伸ばし、日本を始め海外輸出も積極的に進められている。その商品名はDuchesse de Bourgogne(ブルゴーニュの女公<注5> )。この名を聞いて「え? ワインでもあるまいし、なんでブルゴーニュ?」なんて言わないでくださいね。Duchesse de Bourgogneとは 、いわずと知れたブルゴーニュ公国最後の君主マリア。ハプスブルグ家のマキシミリアン一世と結婚し、フランスを撃退して、ブルゴーニュ地方からブリュージュなどを含む現在のフランドル地方西部に渡る地域をハプスブルグ家傘下のブルゴーニュ公国として仲良く統治するも、若くして落馬により命を落とした悲劇の姫君。民衆からは「われらの美しき姫」と慕われ、ブリュージュの聖母教会に、マキシミリアンの心臓とともに仲良く眠る中世フランドルを語るに欠かせない歴史上のお姫様なのであります。ベルギー史、フランドル史を背景とした、悲劇の姫マリアの肖像ラベルと、ワインを思わせるレッドエールの複雑な味わい。ベルギー土産にいかが?
(ベルギー日本人会会報2009年2月号掲載)
<脚注>
注1:RODENBACH醸造所の情報については、以下のサイトを。
http://www.rodenbach.be/fr_BE/index.php?n=1
http://www.konishi.be/brewery/18
注2:ビール評論家マイケル・ジャクソン氏については、「ベルギービールの12ヶ月」9月号で多少解説。
http://en.wikipedia.org/wiki/Michael_Jackson_(writer)
注3:ブラバント馬のシンボルでよく知られるアンバーエールの醸造元。ブラバントの荷馬は農業や運送業でかつてはベルギーの黄金時代を担い、ヨーロッパ各地にも輸出されていたが、近年絶滅の危機に。PALM醸造所は自前の美しいDIEPENSTEYN城に伝統的厩舎を維持し、いくつもの競技やイベントを実施してこの伝統馬保存を企業の文化活動としている。イベントカレンダーをチェックしてぜひ一度見物を。
http://www.palmbreweries.com/
注4:VERHAEGHE醸造所の情報については、以下のサイトを。
http://www.proximedia.com/web/breweryverhaeghe.html
http://www.konishi.be/brewery/15
注5:ブルゴーニュ公国、ブルゴーニュ公女、マキシミリアン一世などについては、Wikipediaにたくさんの情報があります。ご参照ください。