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クリスマスにはビールを
今年もそろそろ師走。サンニコラの時期が過ぎると、いよいよ街のイルミネーションが始まる。心はすっかりクリスマスに飛んでしまっているベルギー人を横目で見ながら、年度末、大掃除、年賀状準備にと追われ始める頃。
せっかくベルギーにいるのだから、ビールでも、クリスマス・年末ならではの風物詩を楽しまねば—ということで、今回はクリスマスビールのご紹介。そろそろ、スーパーの店頭にも、見慣れないそれらしいラベルのビールがいくつか並んでいる頃なので、興味をそそられている方もいるかもしれません。
クリスマスビールあるいはウィンタービール(注1) と言われるものは、通常、アルコール度数が高めのダークビール。ホップ以外に、クローブ、シナモン、リコリスなど、醸造所のオリジナリティで、様々なスパイスを使い、長期保存できるように工夫した、クリスマスからお正月にかけて飲むために造る醸造所自慢のとっておきビール。その昔、長期保存技術が乏しかった頃、9月終わり頃に仕込んで天然の保存剤となるスパイス類をたっぷり使い、発酵・熟成に長期間かけてアルコール度数を高め、クリスマスからお正月の時期に美味しく飲める贅沢なビールを造った、、、のが歴史的経緯。例としては、Silly醸造所のEnghien Noël、CorsendonkのChristmas Ale、Du Bocq醸造所のRegal Christmas(モデルチェンジしてBocq Christmasとなってしまったようですが)など枚挙に暇がありませぬ。とまあ、伝統的には少なくともそうだったのですが、醸造所によっては、そのビールがすこぶる評判で、結局年間造る定番商品になってしまったというところも少なくありません。たとえば、Dupon醸造所のBons Vœux、De Ryck醸造所のArend Winter(日本ではクリスマス・ペールエール)、Kerkom醸造所のWinterkoninkskeなど。
一方、ここ20年くらいのベルギースペシャルビールの再活性化によって、新たに新製品としてクリスマスビールを開発し、サンタやトナカイの絵柄などのついたラベルを作って、「期間限定ビール」としてしっかりマーケティングし、新たなる需要を積極的に開拓している元気な醸造所もあります。たとえば、Achouffe醸造所のChouffe Nice、Huyghe醸造所のDelirium Noël、Verhaeghe醸造所のVerhaeghe Christmas、Boelens醸造所のSanta Bee(蜂蜜入り!)など。
あえて、別のレシピのクリスマス・ビールを造らなくても、この時期にはパーティ需要が増えることに目をつけて、1.5リットル(マグナム)、3リットル(ダブルマグナム)、6リットル(トリプルマグナム)などの超大瓶を出荷する醸造所もあります。これをパーティ会場に置いておくと、「おおお!」という存在感があり、威勢よく開栓して振舞うと、シャンペンや樽酒を開けるような感じで、しかもベルギーらしい景気付けになかなかの効果をかもしだすので悪くはありません。いくつかの醸造所が出していますが、圧巻の超大瓶まであるのは、DuvelとSt. Feuillienというところでしょうか(注2)。
さて、冬季限定のレアものベルギービールというと、ウルサ方の中では必ず出てくるのが、Liefmans(リーフマンス)醸造所のGluhkriek(グリュークリーク)という暖めて飲むビール。伝統的に醸造所の多いブリュッセルの西約50kmあたりに17世紀頃からあった古い醸造所で、フランドル地方特有のブラウン・ビールを主に醸造してきました。20世紀に入って、何度も経営危機に瀕して経営母体が変ってきましたが、とうとう昨年12月に倒産。この伝統的な醸造所とビール達の運命やいかにと祈るような気持ちで見守っていたビール愛好家が多い中、今年6月、われらが救世主Duvel-Moortgat社が買い上げ、これまで同様のビール醸造が可能となったのでした。Duvel-Moortgat社の若手経営陣については、後の連載の中で書こうと考えているのですが、「ベルギーの伝統ビールを近代技術・刷新経営で守る」というその経営方針と使命観は見事。財力と拡大欲で強引に買収しては伝統ビールを殺してしまう他のビール醸造所グループと比べ、尊敬に値するわけです。こうして、今年も、Gluhkriekが飲めることになりました! ただし、いくらDuvel-Moortgat社の配下力とは言っても、もともと造っている量が非常に限られているので、かなりマニアックなところに行かないと見つかりませんのでご覚悟を。
さて、このGluhkriek、どんなビールなのでしょう。味は、複雑なスパイスが効いていて甘酸っぱい、スイスやフランスのアルプス地方で冬季に飲むホットワインのような感じ。ビール好きにアピールするというよりは、レア物好き、ホットワインが好きな方にお薦めかも。Liefmans醸造所のブラウンビールに、アニス、クローブ、シナモンなどのスパイスを加え、サワーチェリー(11月号で書いたクリークランビック参照)を漬け込んで造られます。ランビックと同じ野生酵母も含め、数種類の酵母を使うこともあって、まことに複雑な味。これまでは、古式豊かな開放型の発酵槽を使用する数少ない「純伝統製法」を守っていましたが、Duvel-Moortgat傘下となって、この食品衛生法抵触確実な製法が続行されうるか、興味あるところ。日本でこのレアものをようやく手に入れた人は、いかにして暖めるべきか腐心されるのですが、実際、醸造所の人間に聞いたところ、「お鍋にあけてコンロで暖めてよ」とそっけない。賞味温度は?と尋ねても、微笑みながら「お好みで」。ウンチクの大好きなマニアックな御仁には、マーケティング・マニュアル通り「70℃」が最適ということにしておきましょう。ただし、あくまでも主観的。温度によって、味わいもかなり異なってくるので、それもぜひお試しあれ。
クリスマスビールではないのですが、今日はもうひとつ限定ビールの取っておきをご紹介しましょう。Het Anker(ヘット・アンケル)醸造所のGouden Carolusプレミアム商品Cuvée van de Keizer(キュヴェ・ヴァン・デゥ・カイゼル)(注3) がそれ。今では、ご好評にお答えして、2種類だしていますが、青帯のBlauwという方が元祖。毎年、2月24日、その昔このあたりを統治したシャルル5世の誕生日(とされる日)にごく限定された量だけを仕込み、4月頃から販売されますが、あくまで量に限りありで、在庫のある限りの販売。醸造年が印刷されたラベル、コルクと留め金による打冠。木箱入りの厳かさ。賞味期限は10年、保存環境さえよければ何年でも(注4) 。醸造年をラベルに入れ込んだヴィンテージコレクションもの。結婚や子供の誕生、事業の設立や社屋落成などの記念に、まとめてギフト用に購入するか、コレクション用に。ベルギーらしい記念ギフトとしては、お薦めできる代物であります。このHet Anker醸造所、私がまだベルギービールの日本向け輸出を手がけたばかりの約20年前には、「ダイジョブ?!」という感じのオンボロ醸造所。あの頃、代替わりしたばかりだった、5代目当主による実直な経営再建が実を結び、今日、世界各地のビール品評会で賞を取る実力派に。小さいながら日本向け輸出も堅調で、社長の初訪日が間近に予定されているとか。メヘレンで醸造所が直営するブラッスリー (注5)
も、オセンティックな雰囲気と料理でなかなか。
とまれ、味だの、歴史だの、ウンチクだのに拘らないムキには、オリジナリティあふれるラベルと味を楽しみながら、冬の夜長を楽しんでいただきたいものです。ちなみに、ベルギービールには、進化論すら認めたがらないお硬いアメリカの倫理コードにひっかかってしまうようなビールラベルが時々あるのも事実。二度もTTB(米国財務省のアルコール、タバコ関連局)の検閲で引っかかり米国内での販売が禁止されているというのはDe Struise醸造所のTsjeeses Belgian X-mas Ale (実際、私はこの醸造所もビールも知りませぬ、注6)。アルコールかドラッグでトランス状態にある表情をしているからとか。それなら、Huyghe醸造所のこのなんともお色気たっぷりの Mère Noël(サンタさんは、Père Noëlなので、サンタ・ママ?)も危険すぎでしょうか。。。。
<脚注>
注1:日本で調達できるものは、以下のようなサイトでごらんになれます。http://www.belgianbeer.co.jp/lineup/list_fg_97_1.htm
http://www.worldbeer.co.jp/world_beer/beer99.html
http://blog.belgaube.com/?eid=581325
注2:St. Feuillien のマグナムhttp://www.st-feuillien.com/FSTFENG.html、
Duvelのマグナムがサイトで見られるのは、http://www.konishi.be/beer/45/等
注3:http://www.hetanker.be/en/beers/gouden-carolus-cuvee-van-de-keizer.html
注4:10号でも書いたとおり、ビールは国際商取引上「工業製品」なので、「賞味期限の記載」が義務付けられておりまして。
注5:Brasserie Het Anker http://www.hetanker.be/en/brasserie/index.php
注6:http://joesixpack.net/blog/wp-content/uploads/2008/05/tsjeeses-8x15-2008-usa-edition.jpg
(ベルギー日本人会会報 2008年12月号掲載)