ブリュッセル首都圏政府内務長官ブルノー・ドゥ・リル氏(当時)。ゲイ婚し、養子を迎えて幸せな家庭を持つ彼は、ゲイをカミングアウトしている政治家の一人だ。
真剣に執務中のこの方――ブリュッセル首都圏政府の内務長官(当時)ブルノー・ドゥ・リル氏。機会均等、交通、公共サービス全般を担当するエコ党の政治家だ。彼の右耳にきらりと光るイヤリングが見えるだろうか。実は、彼はゲイであることを公表し、同性結婚し、養子を迎えて家庭を築いている。
ベルギーには彼のような政治家は珍しくない。現首相エリオ・ディ・ルポ氏も社会党党首時代から、ゲイであることを公言している。
ベルギーは2003年、オランダに続いて同性結婚を合法化した。翌年には、カップルの片方がベルギー居住者であれば、外国人でも同性結婚が可能になった。年間1000組を優に上回る同性カップルが合法的に家庭を築いている。行政政策の殆どがEUに委譲されてしまっている今日の欧州だが、婚姻に関しては、加盟28カ国間での違いは今も大きい。
2013年、フランスでは同性結婚の合法化について白熱した議論がマスメディアを賑わせ、反対デモが繰り広げられた。同性愛は、欧州北部ではごく当たり前のこととなっているが、フランスのあたりを境目に南へ行くほど保守的になり、今もゲイに対して眉をひそめる国もある。
ベルギー前首相エリオ・ディ・ルポ氏(社会党、中央)もゲイであることを公けにしていた。彼は、イタリアからの移民の末裔でもある。© European Union 2014
今日ベルギー近隣はヨーロッパの十字路と呼ばれ、有史以来、ケルト・ゲルマン・ラテンなど様々な文化・言語を持った民族が行き交い、戦いを繰り返しながら、交流・交易し、独自性を尊重してきた。
「多様性」と聞けば、アメリカの十八番のように思うが、アメリカは「アメリカ的価値感」を共有する多様な人間が作る国なのに対し、ここには多様性そのものを個性として、ありのままに許容する土壌があるのだという。
「多様性」は、何も同性愛に限ったことではない。「性別、人種、宗教など、人間を属性や志向性によって、差別したり中傷したりしない――ブリュッセルは、誰もが自分らしく生きられる社会を目指している」と、ドゥ・リル氏は、にこやかに語った。彼はゲイのみならず、レスビアンやトランスジェンダーなどを含むLGBTQIと呼ばれる人々を支持している。
「ゲイ・フレンドリー・ブリュッセル」と銘打つブリュッセル市は、いったいどんな政策をとっているのだろうか。第一は、Rainbow Houseなど同性愛者の協会活動や、今では市の名物行事となったゲイ・パレード「The Pride」の後援だ。政治家がこうしたイベントに積極的に参加してロールモデルを提示することは、社会の考え方を変革する原動力になるという。
また、市として、差別や迫害を撲滅するために、年に3~4回、ホテルやレストランといったサービス産業や警察機構などで研修やトレーニングを行い、学校でセンシビリゼーション(標準化)のキャンペーンを実施する。同性愛問題だけでなく、人種差別・性差別・同性愛嫌悪を同根と考えて、それらを根絶すべく社会全体を啓蒙するのだ。
2014年5月、ブリュッセル恒例のゲイ・パレードThe Prideでは、シンボルの虹色の横断幕を政治家や有名人が引いて先頭を歩き、家族連れや老若男女8万人が「寛容」を掲げて街中を練り歩いた (c) The Pride
「The Pride」の主催者アラン・デゥブラン氏はこう説明する。
「パレードは、1996年、当時のブリュッセル市長に猛反対されながら2500人でスタートした。毎年成長し続け、2000年代初めには2万人以上が参加するようになった。
その頃、エコ政党や社会党が『同性結婚の合法化』を公約にかかげ、5月のパレードを供に歩いて勝利。新政権下の6月、同性結婚は表立った反対運動もなく成立し、実に幸運だった。
今では、パレードは当事者ばかりでなく、老いも若きも、家族連れも含め8万人もが集い、『他人と違う生き方をする権利』や『自分らしく生きる自負』を表現する春恒例の市民イベントになった」
「もしや貴方もゲイ?」と尋ねると、「いや、僕はバイだよ」とハンサムな笑顔で応えた。
ブリュッセルではゲイ・ツーリズムの推進も盛んだ。「同性愛者は、国際的で旅行好き。買い物上手なおしゃれが多い。グルメで美味しいものにはお金をかけるし、コンサートやミュージアムにもうるさい」とは、ブリュッセル観光局のゲイ市場担当フレデリック・ブトゥリ氏。
こんな観光資源を放っておく手はない。今日、ゲイの世界の人気パーティ「La Demence」は、年20回ほどの開催だが、世界40カ国から、年間35,000人を集め、開催週末のブリュッセルではホテルはどこも満室になる。
これまで、ゲイが好む都市といえば、アムステルダム、ベルリン、シチェス(スペイン、バルセロナ近郊)と言われてきたが、ブリュッセルの「差別を嫌うリベラルな気風」や「NYに次ぐ世界的グルメ性」が、ゲイ集客の強い魅力になっているとか。4年目にして、ゲイ観光客は早くも倍増。人口120万のブリュッセルで、ゲイ観光客の市場規模は、ざっと500~600万EUR(6~7億円)とされる。
『ゲイ・フレンドリー・ブリュッセル』の立役者たちは、2020年までに、パレードを欧州最大の『EuroPride』に盛り上げ、「誰もが自分らしく生きられる社会」を世界にアピールしたいと意欲満々だ。
<2014年3月11日 朝日デジタルWEBRONZA初出掲載>