香水ワークショップに夢中になる少女たち
© Greelight for Girls
「計算コンクールや実験コンテストが好きな『理数系女子』だった私は、同世代から『Geek』(オタクのような意味)なんて呼ばれて、冷たい視線を浴びてた わ。」こう話し始めたメリッサ・ランコートさん(42才)の目が真っ赤になって潤んだ。彼女は、少女達に理数系分野を推奨する『Greenlight for Girls』の発起人。
Greenlight for Girlsのロゴ © Greelight for Girls
4年前、ここブリュッセルで産声をあげた活動は、世界各地で活躍するプロフェッショナルな女性の共感を得て輪を広げ、今では、ニューヨーク、ボスト ン、ロンドン、アテネ、ソフィアの他、南米、アフリカ、インドなどの世界16都市で、一年を通して様々なイベントを開催するようになった。彼女らは、理数 系分野を、Science, Technology, Engineering, Mathematicsの頭文字をとって、STEMと呼ぶ。そして、若い少女達に「STEMはこんなに面白い!」、「STEMを学ぶと、こんな未来が開け る!」と啓蒙している。
今年で4回目となったブリュッセルでのイベントは、『Greenlight for Girls』の中核ともいえるイベントで、わくわくドキドキの体験ワークショップの一日だ。11月16日(土)、ブリュッセルにあるインターナショナルス クールISBの校舎には、早朝から11歳〜15歳までの少女180人、ボランティア60人が大集合。まずは、受付でもらった白衣を、カラーペンやシール で、「お気に入り」のラボコートに仕上げる。
お気に入りのラボコートを! © Greenlight for Girls
この日のゲストスピーカーは、軍服姿が凛々しいアメリカ海軍大佐キャロル・ホッテンロット氏。軍艦デストロイヤーの司令官を務める彼女の話には、少 女を引き込む迫力がみなぎる。少女たちは自分で選んだ4つのワークショップ(英仏蘭語の3言語で開催)に参加。たとえば、英国化学協会による「お料理する とどう変わる?ビタミンC」、フォトニクス専門家による「光ファイバーって何?」、ルーターメーカー技術者による「コンピュータ・ネットワークを作ってみ よう」、生物学博士課程の学生が主催する「フルーツのDNAってどんなふうに見える?」、化粧品会社研究者は「自分だけの香水を作ってみない?」や「野菜 パックのお肌への効果は?」など、少女たちの興味をそそるテーマが盛りだくさん。
4回目を迎えた今年、過去に参加した少女達数人が、「私にもワークショップをやらせてと戻ってきてくれたのが嬉しい」とランコートさん。先輩女性の熱い思いが、次世代の少女達に受け継がれていると微笑む。
ワークショップで使用する材料や道具類、会場や食事などを提供しているのは、P&G、Plant for the Planet、CISCO、ISBインターナショナルスクール、ルーヴァン・カトリック大学などいくつかのスポンサーや協力者。後は、主旨に賛同する女性 を中心としたボランティアによる手作りイベントだ。
彼女達は、企業で、研究者として、コンサルタントとして、さまざまな分野で活躍するプロフェッショナルが多いが、同じような思いを共有する。親や先 生たちには「女の子は、物理なんて解らなくてもいい」、男の子からは「数学なんかできる子はかわいくない」、同輩からは『がり勉』『オタク』と呼ばれ続け てきた。でも、大人になってみると現実は違う。「STEM分野を恐れず、それでいてしなやかな調整力や統率力のある女性人材こそ、『持続可能な発展』を目 指す現代社会が必要としている。だから、私たちが次の世代を勇気づけなければ」と。
発起人で会長のMelissa Rancourtさん greenlightforgirls.org © Greelight for Girls
『Greenlight for Girls』が世界各地で展開する活動は、体験ワークショップ・デイばかりではない。小中学校の理科の授業に、「ロールモデル」的な女性リーダーを送りこ んで、ワクワクするような講演や出張授業を実施したり、開発途上国の恵まれない少女たちに、STEM分野への進学を支援する奨学金制度を設ける、科学書籍 や実験用具類を集めて寄付するなど、世界各地で様々に活動を広げている。
アジアでは、インドなど旧英領圏では輪が広がっているが、日本からの仲間やイニシアティブを心待ちにしているという。こんな活動を主催できる女性プロフェッショナルやスポンサーは日本にもいるはずだ。
80年代のアメリカですら、工学部に入った女の子は自分ひとりだったと回想するランコートさん。『Geek』と呼ばれた少女は、今や、いくつもの国際企業の技術顧問を務め、自らも経営者となり、世界中を駆け巡る中で、着実なパラダイム・シフトの手ごたえを感じると言う。
「頭の弱そうな女の子だけがモテる時代は終わりだよ。」傍らで、ご主人が暖かく微笑んだ。
イベント会場の入り口に立つバナー © Greenlight for Girls
(2013-11-28 PUNTA掲載、オリジナルタイトル「パラダイム・シフトの手ごたえ。
理数系女子がモテる時代へ!」)