8万人が集うゲイ・パレード (c)The Pride
青空にそよぐ虹色の旗――ご存知だろうか、同性愛のシンボル旗だ。ブリュッセル旧市街、グランプラス至近には、この旗を掲げる店が並び、男同士で楽しそうに腕を組んで歩く漫画壁画が象徴的に描かれる界隈がある。ブリュッセル市が力を入れる「ゲイ・ツーリズム」のメッカだ。
ゲイのシンボル「虹色の旗」 © Michiko Kurita
「ゲイ」という言葉で代表させているが、ターゲット層は『LGBTQI』――ゲイ、レスビアンの他に、バイセクシュアル、トランス・ジェンダー(生まれ持った身体と内面的アイデンティティが異なる)などが含まれ、裾野は思いのほか広い。
数年前から、本格的にゲイ・ツーリズムに力を入れるブリュッセル市観光局は、その市場規模を現在500〜600万EUR(6〜7億円) と見込むが、今後も成長が期待できると明るい。不況下にあっても、ゲイ・ターゲット層は、「比較的豊かで、グルメでおしゃれで旅行好き。コンサートや芸術 鑑賞にも出費を惜しまない」という。
では、具体的にはどのような企画を展開しているというのだろう。同市観光局には、ゲイ・ツーリズム開発コンサルタントがいて、LGBTQIの個性豊かな対象層を代表する小委員会から、アイデアを吸い上げる。
ブリュッセル市観光局のホームページVisitBrusselには、専用ページが設けられ、ゲイ・フレンドリーなホテル、飲食スポット、ショップ、 クラブや専門パーティなど、様々な情報が掲載され、専用のシティー・マップやガイドブックなどの印刷ツールも充実している。こうした拠点を積極的に開拓 し、差別や偏見をもたらさないための啓蒙や研修を行うのもコンサルタントのフレデリック・ブトゥリ氏の役目だ。
ゲイ・ツーリズム年間カレンダーの中核となるのは、96年以来毎年5月に開催される、恒例のゲイパレード「The Pride」だ。主催団体BLGP(Brussels Lesbian and Gay Pride) も、市が後援する。今では、当事者ばかりでなく、友人、同僚、家族など、8万人もが参加する盛大なイベントに成長した。先頭を歩くのは、政治家などの著名 人。老いも若きも、家族連れも、愛犬連れも、「誰もが堂々と自分らしく生きる社会」を謳歌して歩くと語ってくれたのは、責任者のアラン・デゥブラン氏だ。
魅力溢れるゲイ・ツーリズムの立役者(左から、Rainbow Houseのマッゾ氏、The Prideのデゥブラン氏、観光局コンサルタントのブトゥリ氏) © Michiko Kurita
ゲイ街の中心に位置し、ベルギーや世界中にあるさまざまな代表団体、商業施設、警察、市民とのハブ役を務めるのは、Rainbow House(レインボーハウス、虹の家)――ここも市がバックアップする。責任者のフランソワ・マッゾ氏は、同性の両親に育てられたニュー・エイジだ。
確かに、集客パワーのあるパーティ「Demance」などは、対象者限定で、一般が楽しめるものではない。それでも、年20回ほど開催されるこのイ ベントには、世界40カ国から、年間35,000人もが集まり、開催週末のホテルはどこも満室。ビジネス客が中心のブリュッセルでは、ありがたい新需要 だ。彼らは、当地の飲食店や商店にお金を落とし、展覧会やコンサートへも出向いてくれるので、観光収入全体への投資対効果は極めて高い。
日本では、同性愛が社会で普通に受け入れられているとは言いがたく、自治体が「ゲイ・ツーリズム」を打ち出すには、バッシングやヘイトスピーチへの 覚悟が必要かもしれない。しかし、ブリュッセルが、「ゲイ」に代表させてアピールしようとしているのは、「国籍、宗教、性別や性的志向など、あらゆる意味 での『少数派』が、差別や偏見を受けず、堂々と生きられる社会」なのだ、と説明してくれたのは、自身もゲイ婚しているブリュッセル首都圏地域政府内務相ブ ルノー・ドゥ・リル氏だ。(ベルギーでは、2003年に同性婚合法化。)
ブリュッセル首都圏地域政府内務相ブルノー・ドゥ・リル氏は、ゲイ婚し、養子を迎えて家庭を持つ。 © Michiko Kurita
この理念が完璧に実現しているのかと言えば、まだまだ問題はある。筆者が、ゲイ・フレンドリーと銘打つ某有名ホテルで尋ねてみると、フロントもマ ネージャーも、怪訝そうな対応。それを観光局とホテルの責任者が聞きつけて、超特急で謝罪の雨。「私どもは、どのようなお客様にも、気持ちよく過ごしてい ただけるよう全力を尽くします」と。
「ゲイなんて、ちょっと気色悪い少数派」などと思っていないだろうか。ベルギーでは、首相を始め、多くの政治家、芸能人など、ゲイを公言し、合法的 に家庭を築き、社会で活躍する人は、普通すぎて数えようもない。デザイナーや芸術家の世界では、ゲイでないと肩身が狭いとすら囁かれる。
この取材を通して出遭った関係者は、あまりにもスマートで、魅力に溢れていた。
ゲイ・ツーリズムのパンフレットやシティー・マップ
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VisitBrussel WEBサイト
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The Pride WEBサイト
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Rainbow House WEBサイト
(2014-03-18 PUNTA掲載)