「フ リッツ」とは、「フレンチフライ」「チップス」「フライドポテト」などと呼ばれてきたもので、細長く切ったジャガイモを油で揚げたものだ。世界中で食され ているこの単純な軽食が、なぜ文化遺産に?、それもなぜベルギーの?、と首をかしげる人もいるかもしれない。しかし、ベルギー人は、その起源はベルギーに あり、長く受け継がれた歴史とコダワリ文化を誇りに思っているのだ。
ベルギー自慢の国民的B級グルメ、フリッツ!
まず、ベルギー人は、「フレンチフライ」という呼称に猛反発する。フランス起源かと思わせるこの呼称は、第3代アメリカ大統領トーマス・ジェファー ソンがホワイトハウスの晩餐で「フランス風ポテト」と呼んだことに由来すると言われるが、それは1802年のこと。これが庶民に広まったのは、第一次大戦 中(1914-1918)、ベルギー国内で戦った多数の英米兵が、フランス語を話すベルギー兵の食べていたジャガイモを「フレンチフライ」と呼んで帰還し てから普及させたからという説もある。
さらに歴史を遡れば、もともと南米原産だったジャガイモの欧州伝来は、16世紀貿易港として栄えたアントワープからで、それを最初に揚 げて食べたのは、18世紀頃、ベルギー南部ミューズ川流域の庶民で、冬場、凍結して獲れない川魚を模した代用食だったともっともらしく語られている。
それにしても、ベルギー人は、この『フリッツ』と、それを売る『フリッツ屋台』に、ことの他こだわる。原料として使われるジャガイモは、ビーンチュ という品種でなければならないし、その切り方や太さにもウルサイ。揚げ油は、3回フィルターした牛脂で、まずは低温で下揚げし、お客の注文を受けてから、 高温で揚げなおす二度揚げが絶対だ。こうすると、四角柱の辺に沿ってこんがり黄金色になり、外はカリッ、中はホックリという理想的な出来栄えになるのだと か。
フリッツ用ジャガイモ「ビーンチュ」
それを、ベルギー人はマヨネーズベースの実に様々なソースを付けて食べる。ファーストフードチェーンで出す成形抽出のポテトも、冷めてしんなりしたフリッツもベルギー人には耐えがたい。ケチャップ&マスタードもヴィネガーも邪道だといわんばかりだ。
確かに、ベルギー人は、フリッツ好きだ。人口1,000万強に対し、5,000を超えるフリッツ屋台があり、4人にひとりは、週に1度はフリッツ屋 台に立ち寄るとの統計もある。子供のいる家庭なら、フリッツ揚げ器は、日本人にとっての炊飯器みたいに、一家に一台の必需品だ。スーパーには、必ず「フ リッツ専用」のビーンチュというジャガイモが置かれているし、ずらりと並んだ冷凍フリッツや揚げ油は圧巻ですらある。
近頃では、健康志向の高まりで、家庭では、揚げ油を植物性に変えたり、高カロリーなマヨネーズ付きフリッツを避けたりする人も増えたが、それでも、 屋台で食べる至福のフリッツは健在。ミシュラン星付きの有名シェフも、店が引けた後、こっそりとフリッツ屋台に立ち寄るという話を聞いたこともある。ベル ギー出身の人気ラッパー「ストロマエ」の歌になってしまうほど、フリッツはベルギー文化そのものなのだ。
スーパーにずらりと並ぶフリッツの冷凍食品
フリッツ屋台を全国組織し、HACCPを推進して、ベルギー自慢のB級グルメを文化遺産の域にまで高めてきた牽引役は、全国フリッツ連盟 (UNAFRI-NAVEFRI)だ。12月に実施する「フリッツ週間」で、今年は「フリッツを世界遺産に」キャンペーンが展開された。2015年早々に は、ベルギーの文化遺産化を実現し、2016年のユネスコ無形文化遺産登録を目指して申請手続きに入るという。
最近では、東京でも「ベルギー・フリッツ」を売る店が出てきた。年内には、外苑前にも、ベルギー人によるベルギー産ジャガイモを使った、こだわりのフリッツ屋台がオープンするらしい。
『ベルギービール』に続いて、『ベルギー・フリッツ』という名称が定着する日もそう遠くなさそうだ。
「フリッツを世界遺産に」キャンペーンポスター (c) Hungryminds-Unifri-Navefri
(2014-12-22 PUNTA掲載)