ベルギーはビール王国
婦人通信誌上では、「ネロとパトラッシュ基金理事」とされている私ですが、これはボランティアのチャリティ。90年代始めに渡欧して以来、生業としてきたことは、ベルギーのバラエティ豊かな地ビールを日本に紹介することでした。
おかげさまで、20年前には誰も知らなかった「ベルギー」は、今では東京を中心に、「ビールの国」「グルメの国」としてそこそこ知られるまでになったので、皆さんの中にもご存知な方がいらっしゃるかもしれません。
日本では「ビール」というと、熱い夏にギンギンに冷やして飲む、苦味の効いた金色の飲み物を思い浮かべることでしょう。
実はあれは、19世紀後半になって、『発酵』が科学的に解明され、温度や菌を管理した近代工業生産が可能になってから登場した、ラガー(またはピルス)と呼ばれるニュービール。
そもそもビールは、穀物から抽出した糖分を発酵させたアルコール飲料で、その起源は紀元前数千年メソポタミア時代とされています。「ベルギービール」と呼ばれるスペシャルビールは、この流れを踏襲する古典ビール。イマ流のスローフードあるいはロハス(Lifestyles of Health and Sustainability)の旗頭のような、与えられた環境と共生する自然体ビールなのです。
ラガービールとの大きな違いは原料のバラエティと醸造の方法。日本では、ドイツの「純粋令」なる法律に倣った酒税法で、ビールの原料が厳しく限定されているため、どのビールも似たり寄ったり…。この純粋令、元をたどれば16世紀、ドイツ南部にあったバイエルン公国の王が酒税収入を最大化するために原材料を大麦麦芽に限ったもの。この法律は今日に至るまで、為政者の都合のよいように使われてきました。一方、ベルギーにはこのような法律がないので、地元産の小麦やコーンなど(麦芽化してない)穀物を始め、サワーチェリーや木苺などの果物やホップ以外の香辛料を幅広く用いて、味も見栄えもバラエティ豊かなビールを造り得たのです。また、年間を通して比較的寒冷で、腐造を起こす微生物が少ない環境条件が、「天然酵母による自然発酵」のような、運を天に任せる古典的製法の温存を可能にしてきたわけです。このいかにもアナログでアバウトなやり方は、効率と生産性を追求する近代化を生き抜き、スローライフ、ロハスというような今日的価値を再認識され始めたと言うわけです。
20年前には、「ベルギー?苦くないカラフルなビールなんて」と話も聞いてもらえなかったのですが、長期戦で取り組んでくれる輸入元を見つけ、テレビや印刷媒体に働きかけ、地道なPR活動を続けた結果、今では、全国に200以上のベルギービール専門店や酒屋ができ、一般の飲食店や量販店でも扱ってくれるまでになりました。
私は2008年、二度目の乳癌を機に、輸出業の現場は譲り渡しましたが、今でも、テレビ番組の手伝いや雑誌、ホームページへの寄稿を通して、ベルギービールの日本へのPRに関わり続けています。
毎年、9月最初の週末、ブリュッセルの中心、世界遺産でもあるグランプラスで、中世から続くビール醸造業ギルド(醸造家組合ビール騎士の会)が「ベルギービールウィークエンド」を開催し、その場で、新たな名誉騎士の任命が行われます。ベルギービールの普及振興に貢献した人に送られる「名誉騎士」に、今年、私も晴れて加えていただくことができました。
<婦人通信 2010年11月号掲載>
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