知っていてほしい:海外在留邦人子弟の義務教育
未曾有の世界恐慌だというのに、在ベルギー日本人学校の生徒数は増加するばかり。新たな校舎増築が決定されました。ベルギーは人口一千万人の欧州の小国ですが、EU本部が置かれているため、日本を代表する外交チームも2つ(在ベルギーおよび在EU)。日本経済を背負って立つ自動車メーカーの雄、トヨタのヨーロッパ本社があるため、関連会社やサプライヤーが多く進出していることもあり、国の規模の割に在留邦人が多いのです。国内にいると、考えることもないこうした海外在留邦人子弟の義務教育について、ベルギーの例から知っていただきたいと思います(注)。
ベルギーでは、2歳半から「学校」という教育の枠組みに入り、小学校から高校までが義務教育で、原則として無償。「子供の権利」なので、外国人も例外ではありません。ただ、仏語か蘭語による教育なので、多くの在留邦人は尻込みし、帰国後の進路も考えあわせると日本人学校(全日制)に入れるのが大半。せめて英語を身につけさせたいと願ってインターナショナルスクールに入れる場合もありますが、ベルギー管轄外なので有償。年間授業料が約300万円もするので、派遣企業が負担しない限り無理。日本人学校には、文科省から先生が送られ、教科書も無料配布されますが、実は、日本企業が基盤の日本人会が理事会を運営する「私立学校」。入試こそなく、入学希望者は随時受け入れますが、有償で(年間約50万円でほとんどの場合企業負担)、入学を断る場合もあるということになります。たとえば、日本国籍がない、日本語が弱い(国際結婚や長期滞在者の子弟)、そして障害児などのケースです。所謂「国際学校」は、他にもブリティッシュ・スクール(英)、リセ・フランセ(仏)等多数あり、在留邦人子弟もかなり受け入れられていますが、子供の国籍や言語力を入学の条件とするところは日本人学校以外には聞いたことがありません。その国の教育方針に賛同し、言語や文化を学ぼうとしてくれる外国人子弟を、分け隔てなく迎え入れています。
それでは、障害児の場合はどうなるのでしょう。従来は、障害児がいるなら、単身赴任するか、海外赴任そのものを諦めるべきだと考えられてきたようです。現地邦人社会は、どちらかといえば「世間の勝ち組」に属する人が多いのも事実で、本音としては「日本人学校には障害児は無理。連れてくる方が非常識」的なニュアンスは否めません。しかし、少なくとも表向き、日本が西側先進諸国のひとつとして、民主的人道的な価値観に立つなら、障害児にも義務教育を受ける権利があり、障害児を持つ親にも自己実現を諦めなければならない理由はない。いわば日本経済を担って海外に派兵される戦士のような邦人家族の生活や教育の保障は、日本国や現地邦人経済界の責任と思えてならないのです。
今日、広い意味で発達障害・学習障害などを持つ子供を含めるなら、子供の一割がなんらかの障害を持つとも言われています。現在ベルギー日本人学校(全日制)の生徒数は約400人。どんなに少なく見積もっても、十名程度の子供達は本来、養護学校か特別支援教育を必要とするはずです。ベルギーの日本人学校への養護教員派遣は打ち切られ、特別支援クラスはなくなっています。軽度な場合は、教育効果には目をつぶっても、片身の狭い思いをしながら、そっと在学させてもらうか、経済的に許すなら、補助教員を多く配備する高額なインター校に、重度な場合は、ベルギー人にも不足がちな無償の定員枠をもぎ取ってでも、現地の養護学校に頼み込んで受け入れてもらっているのが現状。経済大国ニッポン、豊かな在留邦人社会が、自国の障害児の義務教育を現地社会にフリーライドして涼しい顔をしている・・・ 何かがおかしいように思うのは私だけでしょうか。
注:世界中にある日本人学校が、すべてベルギーと同じように運営されているというわけでも、ブリュッセル日本人学校(全日制)を特に批判しているのでもありませんのでご理解ください。
<婦人通信2009年8月号掲載>
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