にほんブログ村
にほんブログ村
最終回:ベルギービールに乾杯!
『ベルギービールの12ヶ月』として連載してきたベルギーに滞在する人のための基礎講座、いよいよ今回が最終回。ということで、まずは卒業テストから。
①ベルギーにはビールが400種も800種もあると言われていますが、その中でカテゴリーとして一番飲まれているのはどんなビール? 代名詞とも言うべき銘柄は?
②ベルギースペシャリティビールが、世界のビール界を凌駕しているラガー・ピルスナービールと抜本的に違う点は?
③白ビールってどんなビール? 原料上の特徴は? 白ビールと呼ばれる所以は?
④ベルギー名物トラピストビール、3つ位は言えるかな?
⑤グーズ・ランビックって、どうしてブリュッセル南西部20km圏内でしかできないと言われているの?
上記の5問に正解し(答えは脚注のさらに下をご覧ください)さらに、以下の最後の質問に答えられた方は、『栗田路子のベルギービール基礎講座』卒業試験に見事合格! 最後の質問とは、
⑥ベルギービールを飲めるビアカフェを探訪し、「これが一番」というビールと、「ここが一番!」とお薦めする店を見つけましたか?
この卒業試験、どれも答えがひとつではないところがミソ。それがベルギービールらしさであり、またベルギーらしさの真髄でもあると思うから。最終回のテーマは、私からのメッセージ、「楽しもう、ベルギービール!」
ベルギーにいるうちに、楽しもうベルギービール
思えば、私がベルギービールの日本向け輸出を考えはじめた20年以上前、日本ではベルギービールなんて、まだだ~れも知りませんでした。日本在住ベルギー人の大半は上智大学か六甲学院で教育に従事するイエズス会の神父様だったと言っても、あながち誇張ではなかった、、、。「ベルギー」に住んでいるというと、「寒そうですねえ、ブルガリアは」なんて言われてしまって訂正する元気も萎えて苦笑してすごしていたっけ。その頃でも、オランダといえば、少なくとも「チューリップ」に「風車」位は連想してもらえたのだから、ベルギーといったら「チョコレート」に「ビール」位は言ってくれる日をいつかは実現するぞと夢見ながら、宣伝上手の隣国を恨めしそうに眺めながら、マーケティング戦略を練ったものだったでした。
時代は流れて20年後の今日:日本では今や、少なくとも年間100以上のコンテナ満載のベルギービールが輸出され、デパート等の輸入ビールコーナー(注1)には10種類以上が並び、ネット販売専門業者(注2)が現れ、東京大阪を中心に、全国にベルギービールを重点的に扱うビアカフェが50店舗以上(注3)はあるでしょうか。(日本のご家族、ご友人のために、あるいは本帰国の際には脚注の情報ぜひお役立てくださいませ。)20年来の戦友が今も、東京に「ベルギービール広報センター」を構え、ベルギービールのプロモートに孤軍奮闘しています(注4)。ただ、こういうところに来て飲んでもらうベルギービールやベルギー料理はかなりお値段が張り、2人でちょっと飲んで食べたら軽く1万円位になってしまう。その上、実は、ベルギーで飲むあの味とは違う。。。
日本で、輸入食料品が異様なほど高価になってしまう話は有名。日本までの運賃や港での諸経費に手数料、それらを全部加えた輸入価格への日本国の税率のすさまじいこと。高級ワインやシャンペンなら、単価が張るので飛行機輸送が見合います。ところが、嵩も重さもある割りに単価の安い商品は分が悪い。その上、ベルギーのスペシャリティビールは上面発酵だから、酵母が休眠状態にあるものが多く、日本に向けて赤道直下を2度も通過するとなると、高価でも冷蔵コンテナを使いたくなる。それですら、炎天下に上陸された港で密閉状態のコンテナごと電源抜いたまま放置されるのだから、味も品質も保てる方が不思議。
日本上陸までの大雑把さ、いい加減さに比べ、入国通関してからの異常なほどの効率優先、少量・オンタイムの配下、店頭での厳しいフェース取り、飲食店でのサービスの素早さは滑稽なほど対照的。日本の量販店や飲食店は、裏ラベルが多少ゆがんでいるだけでも、賞味期限まで6ヶ月以上ないというだけでも返品。日本に輸出して店頭に並ぶまでに少なくとも3ヶ月はかかるというのに? 日本語の輸入ラベルを上から貼るのというのに? 第一蘭・仏語の裏ラベルはわからないのに? GMO(遺伝子組み換え食品)騒ぎの時も、中国の食品添加物混入騒ぎの時も、すべての輸入品に追加の証明書添付を義務付けたのは、日本だけだった。それも、今回の新型インフルエンザ騒ぎ同様、大騒ぎする割に、いつの間にか掻き消えてしまう。コストだけが上乗せされて、損をしているのは実は日本の消費者?
ウンチク忘れて楽しもう、ベルギービール!
こうして、日本では高級品となってしまうベルギービールの愛好家は、必然的に相当に入れ込んだオタク的な輩が多くなってしまう。彼らは時間もお金も投資しているから、クワシイ、そしてコダワル。ベルギービールについて書かれた本の日本語版をカラフルなラインマーカーと付箋紙で徹底的に学習し、丸暗記してしまっていたりする。ボーナスをすべて注ぎ込んで、年に何回もベルギーにやって来て、公共交通機関の恐ろしく不便なこの国で、電車とバスを駆使して超田舎の零細醸造所を訪ね、閉まっているドアを叩いてでも片言の英語で見学してしまったりする。そして、ビールの造り方だの、原料だのを説明されると、故Mジャクソン氏のThe Great Beers of Belgium(注5)の何年版の何行目の記述と違っていると指摘して、醸造家や出版社に文句をつけたりする。「おっちゃん、この本には、ポプリンゲ産のXX年もののホップを使うと書いてあるから、そうでないと困る」って。クリーク・ランビックには、スキャールベーク産のサワーチェリーでなければいけないと書いてあると言い張ったりする。室温で飲む「味わいビール」だからと言って、日本の真夏に文字通り室温の40℃でトラピストビールを飲もうとするクソマジメなファンも日本人位なもの。今年4月のToer de Gueze(グーズランビック醸造所の公開日)(注6)を記念して作られた8醸造所メガブレンド(750ml)16,000本のシリアルNo. 00001をネットオークションで255EURで競り落としたのも日本のマニアらしい。
ベルギーの醸造家は、日本人やアメリカ人が最近になって「マイクロブルワリー」だの「ブルーマスター」だのというカッコイイ命名をする前から、家業が醸造所で気がついたらそこにいたという人が多い。それでいて、若い世代には、ルーヴァン大学やら、ゲント大学やらで、醸造工学や発酵微生物学や経営学をまともに学んでいたりするのも珍しくない。でもなんと言っても、彼らは、醸造家・経営者である以前にベルギー人。なので、倹約家、現実派、ベルギー風妥協がうまい。
ピッカピカの最新式醸造機器よりも、倒産した古い醸造所から、まだ使える機器をひとつひとつ見つけ出して使うことが上手。リーズナブルな値段でそこそこの品質の原材料が買えるなら、国産品へのコダワリなんて微塵もない。相手が農産品と微生物の醸造業、できないものはできないから、納期が遅れようと、味や風合いが多少ぶれようと、必要以上に謝らないし、休み返上で七転八倒するなんてこともありえない。レシピだって、表示だって、多少のことなら目をつぶって上手に妥協してしまう。去年まで「このビールの特色はなんと言ってもキュラソーだよ」って、あれほど自慢していたのに、ふと気づくと表示から消えてしまったりする。尋ねると、「ああ、あれねえ、ほんのちょっとしか入れてなかったのに、高いからもう辞めたの」なんてあっさり言いのけてしまうから、オタク達はまるでスクープしたようにブログに書きまくり、輸入業者は大慌て。
プライド持って楽しもう、ベルギービール!
一方、ビールは太る、健康に大敵、ワイン(特に赤ワイン)の方がおしゃれだし、まだ健康によい、、、と信じている方に一言。90年代前半に『フレンチ・パラドックス』(注7)として赤ワインの健康上の効用が持てはやされた、日本では猫も杓子も、おでんやで焼き魚つつきながらでも赤ワインがブームになったこと、ご記憶にまだ新しいかも。あれはすべて、フランスの農業振興団体の巧みなロビイングとマーケティングの賜物。そこで、遅まきながら、ベルギービール業界も、巻き返しをと立ち上がる。今や、アルコール全般の健康上および交通安全上の弊害が声だかに叫ばれ、タバコに次いで世間の風は冷たい。
あのグランプラスに、今だにギルドハウスに業界団体として存在するベルギービール醸造家組合。その組合がビール(およびアルコール飲料全般)の賢い楽しみ方、飲酒と運転、飲酒と未成年者の関係をマジメに考えるために、Arnoldus Groupを立ち上げ、広告広報のための倫理規定を他のアルコール業界に先駆けて立ち上げたのは92年。その後、これが全アルコール業界に広がったのは2005年。ビール業界の社会的責任をまっとうするためにと、組合が『ビールと健康』というテーマの科学的研究に費用を出し、この分野での研究を推進するようになって久しい。研究成果は定期的に学会発表され、記者会見が開かれ、出版され、ホームページでも見られる(注8)。それによれば、「ビールが太る」のではなく、ビールを大量に飲むようなライフスタイル、つまりテレビの前に寝転がってカウチポテトするような食生活が高カロリー、高コレステロールで肥満を招く。一方、ビールに用いられるホップ(雌花)には、他のアルコールにはない上質のポリフェノールを初め、エストラゲン(植物性の女性ホルモンとして、大豆などで持てはやされている)などの希少な有効成分が多く含まれ、乳癌、前立腺がん、骨粗鬆症の予防などに効果があるのではないかとの研究も。アルコールにしても、一時に大量に取るから弊害が大きいのであり、ほら養命酒にだって含まれているように、少量の摂取は無害なだけでなく血行促進などにつながってむしろよい場合も。「休肝日」なんて無理やり作ると、むしろ「飲みたい」という欲望を掻き立てて逆効果、毎日1~2杯のビール(またはワイン)は健康のバロメータとの研究結果もあるのです。
と、そんなベルギービールの醸造家達が呼びかけるメッセージはこれ。
Une bière brassée avec savoir se déguste avec sagesse.
Bier met liefde gebrouwen, drink je met verstand.
栗田路子訳は、『心を込めて造るビールだから、賢く飲んでね。』
ベルギービールは、工業生産の似たり寄ったりビールなんかじゃな~い!
ベルギービールは、ウンチクをこね回して難しい顔して飲むものじゃな~い!
ベルギービールは、馬鹿飲みして酔っ払うためのもんじゃな~い!
卒業試験の解答は、おいおい拙ブログに掲載します。連載を全部読めなかった方、もう一回復習したい方、ただ貼り付けているだけですが、ブログもご活用ください。
http://multilines.exblog.jp/i6/ 面倒だから、ここに来て話してよ、あるいは中級・上級編をとのお誘いあらば、出前講座もいたしましょう。
この原稿を書いている5月最後の週末は、ブリュッセルは恒例のジャズ・マラソン。そして、若手醸造家の何人かが『ビールと健康』をテーマに走るブリュッセル20kmマラソン。真夏の日差しがまぶしいベルギーの清清しい短い夏が終わると、新たな『ベルギービールの12ヶ月』が始まります。
もし覚えていらしたら、9月最初の週末(今年は4日(金)~)にグランプラスで行われるBeer Weekendでお会いしませんか。ベルギービールに乾杯!
<脚注>
1 :量販店では新宿伊勢丹、池袋東武、渋谷東急、高島屋、明治屋元町、成城石井各店、小売店では目白田中屋、新宿ルミネ・エスト内大阪屋などが充実。
2 :ベルギービールJAPAN http://www.belgianbeer.co.jp/
i-shopping ベルギービール通販http://i-shopping.jp/bb/index.html
アサヒショップ https://www.asahishop.net/21/belgianbeer/
ビアハウス・ケンhttp://www.bhken.com/ など(順不同)
3 :老舗的な「ブラッセルズ」グループで7店舗http://www.brussels.co.jp/
海晴亭系列で4店舗、http://www.dotcommise.com/main/mainmenu.htm
ベルゴ、フリゴの系列で4店舗 http://www.eurobeer.net/
ベルオーブ系列、デリリウムカフェを含め4店舗http://www.belgaube.jp/
関西では、ドルフィンズ6店舗 http://www.dolphins.co.jp/
もちろん、InBevが展開するBelgian Beer Café の日本版は バレル(大阪)やアントワープセントラル(東京)など現在4店舗http://www.belgianbeercafe.jp/ (順不同)その他独立個人店ももちろん多々あります。Beerpediaなるビールのレビューサイトも登場 http://beerpedia.jp/
4 :ベルギービール並びにベルギー食文化についての雑多な情報満載http://bbic.exblog.jp
5 :故Michael Jacksonによる The Great Beer of Belgium(第5版)翻訳版の話が持ち上がっています。興味を持ってくれそうな出版社に心当たりのある方、ご連絡ください。
6 :4月号で紹介。
7: 「フランス人が動物性たんぱく質を多く食べるのに、心臓病などが少ないのは赤ワインのおかげ」という説で、90年代さかんにマスコミに書かれ、世界市場でのフランス赤ワイン需要喚起に大いに成功したもの。
8 :「ビールと健康」についてのホームページhttp://www.beerandhealth.be/
********************************
<卒業試験の答え>
①ベルギーにはビールが400種も800種もあると言われていますが、その中でカテゴリーとして一番飲まれているのはどんなビール? 代名詞とも言うべき銘柄は?
→ベルギーであっても、70%以上のシェアを持ち圧倒的に飲まれているのは、なんといってもラガー・ピルスナービール(底面低温発酵ビール)なのです。Jupiller, Maes、ちょっと高級版あるいは輸出用としてはStella Artoisなどが代表的銘柄です!
②ベルギースペシャリティビールが、世界のビール界を凌駕しているラガー・ピルスナービールと抜本的に違う点は?
→それは、上面(高温)発酵という、古代から伝わる、パスツール以前の発酵方法を用いていること。それを総称して、ラガーピルスナービールに対して「スペシャルビール」と呼んでいるわけです。また、瓶づめしてから、もう一度、ほんのちょっとの糖を酵母を加えて瓶内二次発酵させている(つまり、このときにくわえた酵母は、糖がなくなって食べ物がなくなって不活性になっていても、加熱殺菌されていないので、休眠しているだけ)ビールが多いのも特徴です。
③白ビールってどんなビール? 原料上の特徴は? 白ビールと呼ばれる所以は?
→原料に、大麦麦芽以外に小麦を3割ほど使って造られるビールです。ドイツの白ビール(バイツエン)との違いは、小麦を麦芽化しないこと。ドイツでは単に麦芽化しないとビールとは呼べない!という純粋令なる法律があるために麦芽にしているわけですから。白ビールと呼ばれるのは、淡色で白みがかった色合いであることから。
④ベルギー名物トラピストビール、3つ位は言えるかな?
→Chimay, Orval, Westmalle, Westvleteren, Rochefort, Achelの中から、最初の3つ位は覚えておいていただきたいなああ。
⑤グーズ・ランビックって、どうしてブリュッセル南西部20km圏内でしかできないと言われているの?
→10世紀頃、ブリュッセルという街ができていくきっかけともなったセナ川。今は、南駅付近から、内側環状線の下を通って、ブリュッセル運河に合流してブリュッセルを通過してしまっていますが、今も、Zennevalleiと呼ばれるフランダースブラバントのLembeek, Halle, St. Pieters-Leeuwを通過しています。昔から、このあたりや、Anderlecht, Dilbeekなどのセナ川周辺の大気中にのみ生息するといわれる自然酵母菌だけが、自然発酵のランビックビール醸造を可能にする、といわれているからです。現在では、この自然酵母は、ブレタノミシス・ブリュクセレンシス、ブレタノミシス・ランビキュスという2種類の酵母であることが科学的に解明されています。たとえば、日本の同じような方法で大気中の菌によって発酵させようとするなら、黴や腐敗菌が多く、とても無理、ということを、ランビックビールを視察にいらshた国税局の技官から聞いたことがあります。まあ、セナ川周辺といわずとも、ブリュッセルあたりで黴や腐敗を起こす菌類が少ないなという実感は、炊いたご飯をそのまま放置しても、日本ほど黴が生えたりしないことからもわかりますね。
さて、合格できたでしょうか?