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ビアカフェ探訪
マグリット(注1)の絵のような青い空に白い雲、輝くテラスへ一斉に繰り出す人々、色とりどりのビールグラス・・・待ちに待った清々しい初夏。ベルギーが一番ステキに感じられる季節です!
とは言っても、さすがに雨が多く、暗くじめじめした冬の長いベルギー。それに、ベルギービールは、「夏だ、ジョッキーだ、がんがん行こう!」というタイプのもの以外が本命。なので、伝統的なビアカフェの多くは、落ち着いた(悪く言えば古臭い)雰囲気のインドア・カフェ。このあたりの仏語でEstaminet、蘭語でbruin caféと呼ばれるもの。
イマドキ、カフェ情報は印刷物でもネット情報でも多々見つかると思うので、今日は筆者が独断と偏見でお薦めするベルギー在住者のための必見10選。(とは言っても、それぞれの項にいくつも紹介されているので、実際はもっと。順位には意味はありません。あくまでブリュッセルですが、ご勘弁を。)
1.TOONE (Impasse Ste Petronille, Rue du Marché aux Helbes 66)
マニア本は、普通ここからは始めない。観光ガイド的すぎる? では、ちょっぴり詳しく説明しましょう。TOONEは、19世紀ブリュッセルに栄えた町人芸術「人形劇」の最後の砦。上流階級がオペラに興じる頃、下町マロール地区(毎日蚤の市が行われるあたり)では、支配層を風刺する町人文化が栄えた。江戸の町人文化とか、歌舞伎に対する人形浄瑠璃にイメージをだぶらせるのは私だけではないはず。マロール地区のアングラ人形劇場が廃れてくると、この伝統芸能をなんとか保存しようと1963年になってTOONEは現在の旧市街中心部イロ・サクレに古くからあったビアカフェに移されたというわけ。今も2階の劇場では毎週木~土にかけて人形劇が興行され、1階は古い人形劇場を再現し、かつて活躍した人形達を飾ったカフェとなっています。現在の人形劇団を率いるのは襲名8代目TOONEのニコラ氏。人形劇は「どうせわからないから」と敬遠されがち。でも演目は、カルメンとかドラキュラとか、見ていればわかるものがほとんど。古典ブリュッセル語はどうせベルギー人だってわからないんだから勇気を出して。中幕にはTOONE氏自らがビールをサーブしてくれるし、1階のカフェは夜中1時頃まで営業しているので、ビールと人形劇でブリュッセル文化に浸りましょう。入り口は2ヶ所あり、上記住所は、表通りからの入り口ですが、イロ・サクレ側のからも入れます。カフェの一角に、白黒ギンガムチェックのハンチング帽を見つけたら、それが8代目TOONEのニコラ(引退したお父さんのゲール氏もいるかも)。初老の品の良さそうなおじさまを見つけたら、マネージャーでブリュッセル文化の生き字引とも言えるHoulot氏。声をかけてみてください。
2.A la Bécasse (Rue Rabora 11, 1000 Bruxelles)
ブリューゲルの絵にある、陶器のピッチャーで濁酒を飲み交わす光景。 自然発酵で造られるブリュッセル南西部の地酒「ランビック」。2008年11月号で紹介したように、今日では原酒ランビックをベースに、瓶内再発酵したグーズやフルーツランビックがランビック系ビールの主流となっていますが、樽入りランビックに糖を加えたファロをそのまま陶器のピッチャーに注いでブリューゲル体験できるのは地元ならでは。弱炭酸の林檎ジュース風で、アルコールの弱い人でもばっちり。
つまみには、ブリュッセルっ子になりきって、ブリュッセル白チーズを。正統派は、これを薄切りパンに広げ、赤かぶとその茎をナイフで薄く細かく刻んで散らせ、塩コショウし、一口大に切って。

チーズの角切りにはセロリソルトをつけて。ちなみに、ベカスとは山シギ。ハンターに人気の、今ではほとんど幻のジビエですが、お人よしで馬鹿な女の意もあり。間口が小さく、奥へ一歩入ってから入り口があるのはベルギーのビアカフェの典型。昔、間口の幅に対して課税されたから、との説明に、京都などでもそうだったとか。
ベカスの近くには、証券取引所の側面に、あのベジャールが行き着けだったというLe Cirio(Rue de la Bourse 18-19、1930年代からの典型的カフェ)、反対側にはFalstaff (Rue Henri Maus 17-25、観光客もたくさんいますが、アールヌーボの窓枠やステンドグラスが豪華)など。サン・ミッシェル聖堂の方へ上れば、A la Mort Subite (Rue Montagne-aux-Herbes Potagères 7)、メトロポールホテルの中には、内装の美しいCafé Metropole (Place de Brouckere 31)があります。メトロポールの入り口には、ちなみに、キュリー夫人やアインシュタインが国際物理学会で集まったときの写真がかけられており、伝記で読んだ学者を身近に感じてしまえるベルギー体験。
3.La Fleur en Papier Doré (Rue des Alexien 55)
そろそろ誌面が気になってきたので、短めに。同じく19世紀中盤創業の古いカフェ。他と際立って違うのは、ここが、シュールリアリズムを育み、その後も芸術家を育ててきたこと。シュールリアリズムのアーチスト、特に詩人達はここに集い芸術や政治を談義していたのであります。店名「金箔の花」は詩の一説から。かのマグリット、そして戦後は、新たな芸術運動COBRAの面々、ベルギーを代表する作家Hugo Clausもここの常連だったとか。2007年、老朽化した内装の改修もできなくなって閉鎖。昨年、新たな買い手がつき、伝統的ブリュッセル料理やビールのつまみも食べられるカフェとして、再スタート。めでたし、めでたし。このあたりを探訪すると、再開発が目覚しく、「突然どうしたの?」という感じの新築マンションと中世以来のブリュッセル城壁の一部とが混在した不思議感覚が味わえるので花丸。
4.Moeder Lambic (Rue de Savoie 68)
文化もいいけど、ビールマニア向けのお薦めはないのか! という声に応えて、中心部を少し離れてもマニアックな店へ。 Moeder Lambicは、フォレ市役所のすぐ後ろ。いかにも通好みで地味だけれど、狭い店内はいつも満席。とにかくベルギービールの品揃えでは限定品も含めて圧倒的。そこまで離れたくはないという方には、Rue Royaleからちょっと外れたオフィス街にあるLe Bier Circus (rue de l’Enseignement 57)、Porte NamurからCh. de Wavreをしばし下ったあたりのBeer Mania (Ch. de Wavre 174-176)はいかが? いずれも、マニアックなオーナーが経営。レアもののグラスや備品のコレクションも。Beer Maniaは、ショップもあり、また、ジャズのライブコンサートも開かれます。
5.Delirium Café (Impasse de la Fidelité 4A)
面倒なうんちくはどうでもいいから、じゃんじゃん飲んで騒ぎたいという輩にお薦めなのが、Delirium Café. ご存知Delirium Tremens(アル中による禁断症状)というビールを造るHuyghe醸造所が経営する、ギネスブックにも載ったカフェ。なにせ、ビールは2000種以上。メニューの厚ぼったいこと!場所はイロサクレの奥、ちょっと恥ずかしいJennekene Pis(おしっこお姉ちゃん)のある一角。木曜夜からはライブコンサートもあり、若者が大挙してウルサイ、ウルサイ! 同じマネージャーが経営して成功したのが、La Porte Noire (Rue des Alexien 67)。ワイン倉を改装したちょっと落ち着いた雰囲気なれど、やはりターゲットは若く、イベントなどもあって賑やか。
6.De Ultieme Hallucinatie (Rue Royale 316)
ビールだけじゃなくて、食事も楽しみたいなあという人にはDe Ultieme Hallucinatie。アールヌーヴォの建築家Paul Hamesseによる完璧なまでのトータル・アールヌーボ様式の個人邸宅。ステンドグラスや、鉄の曲線美、食器棚やピアノ、ドアの鍵穴の細部にまで施されたアールヌーボの粋を、ビールとともに。手前は高級レストラン、奥がブラッスリ-。原則として厨房は一緒なので、カジュアルな方がビールも飲めて気楽かも。レストランに人がいなければ、ぜひ頼んででもレストラン内の調度品を鑑賞させてもらいましょう。
7.Drie Fontainen (Herman Teirlinckplein 3)
きどらなくていいから、村人と地酒や地料理を楽しみたいぞ、という方には、Drie Fontainen。RINGの出口19番Beerselを出て、村の教会St. Lambertusの横にあります。ここはランビック醸造の中心地。経営者のDebelder一族は代々、さまざまなランビック醸造所から樽詰めした若ビールを購入してブレンドするブレンダー。木のテーブルに紙のナプキンのブラッスリーには、村中の人々が集まって、地下のビア蔵でブレンド・発酵したランビックをくみ上げて飲み、それを使った地料理を楽しんで来たのです。Debelder兄弟の兄貴Armandは、どうしてもブレンダーでは飽き足らなくなり、とうとう自らランビック醸造に着手。彼は、本物ランビック協会HORALのまとめ役でもあり、同時に、ランビック醸造家。ここで食事をするなら、ぜひ近くのArmandの醸造所にも立ち寄って、お土産に手造りランビックを。
ブリュッセル中心部で、地元の雰囲気のあるブラッスリーといえば、‘t Spinnekopke (Place du Jardin aux Fleurs 1)。ビールを使った創作料理も多数。ランビックビール「カンティヨン」のシャーベットも。席数が限られているので、必ず予約を。
8.アントワープ Quinten Matsijs (Mariaanstraat 17, 2000 Antwerpen)
ブリュッセル以外のトッテオキもちょっとだけご披露。1565年創業の古~いbruin café。日本人とベルギー人のカップルが買い取って経営。ベルギーの古いカフェには必ずあったといわれる木製のゲーム、キャンドルスタンドのついた古いピアノ、そして静かな老人となった常連達。でも、日本人には、裏メニューのカレーライスやドライカレーが美味しい。アントワープには、その他、Café Paters Vaetje (Blauwmoezelstraat 1), Kulminator (Vleminckweld 32-24)なども。
9.De Dulle Griet (Vrijdagmarket 50, 9000 Gent)
Kwakというビールを試してみました? 木製のスタンドに立てかけられた底の丸い長細いグラスで飲むビール。その原型となったのは、かつて、馬に乗ったままビールを飲む御者のために作られたというグラス。De Dulle Grietでは、今も、昔ながらのなが~いグラスでビールを出してくれます(注2)。そのためには、まず天井につるしてあるネットに、靴を脱いで抵当に。ちゃんとグラスを返せば、靴がもどってくるというわけ。百聞は一見にしかず。
ゲントまで行くのに、ブリュージュをカバーしないわけには。そこで‘t Brugs Beertje (Kemelstraat 5, 8000 Brugge) ベルギービールマニアの老舗。しっかりものの奥様、デイジーさんが、今もここの品揃えとビールに合う料理を仕切っています。
10.De Heeren van Liedekercke (Kastelstraat 33, 9479 Denderleeuw)
最後に、地の果てまで行っても、ベルギービールマニアが造る、うまいベルギービールとビール料理が食べたいぞ、という方には、極めつけ。はっきりいって、Denderleeuwは何かのツイデに行くにはどこからも遠すぎ。かなりマニアックな方にはそれでも価値あり。3人の兄弟姉妹が共同経営するこのブラッスリーは、ビールの品揃えはもちろんのこと、月替わりの創作ビール料理、季節の素材を使ったベルギー料理、さまざまなビール企画などもあり、ビール通には定期的に訪れてお友達になりたいところ。英語でなんとか対応してくれますが、場所はDeep Flanders。書かれたものはすべて蘭語ですので、覚悟して挑戦。
ちなみに、このシリーズも、残すところ後一回。非常に初歩的・独善的情報も多く、ご不満もあったかと思いますが、少しでもベルギー滞在を面白くし、話題を提供できたのならば幸いです。なお、過去の記事をご覧になりたい方は、拙ブログhttp://multilines.exblog.jp/i6/ をご覧ください。フィードバックを楽しみにしております。
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脚注
注1:そういえば、近代王立美術館のマグリット館、長らくの工事を終えていよいよ6月2日オープンの模様です。詳しくは、http://www.musee-magritte-museum.be/
注2:ちなみに中身はMaxというビールだそうです。
<在ベルギー日本人会会報 2009年6月号掲載>