これまで多数書いてきた朝日新聞オンライン WEBRONZAのコーナーと、ビジネスマンネットマガジンPUNTAが、メディア側の都合で突然閉鎖になりました。がっかりです。
これまでの記事を、レファレンスとして読んでいただけるように、このブログにアップしたいと思います。
WEBRONZA過去記事はこちらから
PUNTA過去記事はこちらから
2015年秋から、駐日EU代表部の公式Webmagazine
EU Magに、かなり硬い記事ですが、EU政策について詳細な記事を、仲間とともに執筆しています。
無記名ですが、ぜひ読んでみてください。日本では、「国連と同じようなもの?」程度にしか理解されていないEUですが、昨今の、大量なる難民流入、テロ攻撃の頻発、BREXITなどで、興味を持たれる方も増えているかと。読者は少なくても、研究者や政治家が読んでくれているとの話もあるので勇気づけられています。
最近、ネットメディアでは、ハフィントンポストなどに時々書いています。
2016年は、もう少し他のメディアにも精力的に書いていくつもりです。
ハフィントンポスト・ジャパン
「私の夢を返して」 イギリスのEU離脱、将来を台無しにされた若者たちの嘆き
「私の夢を返して」 イギリスのEU離脱、将来を台無しにされた若者たちの嘆き 他" target="_blank">「僕らにはユーモアという武器がある」ベルギー人はテロに知恵で立ち向かう。
前首相もゲイを表明―当たり前にLGBTが暮らすベルギーが大切にしているプライド
旅関連では、All Aboutに加え、トラベルコちゃんでも、愛するベルギーを紹介しております。
All about 海外旅行、ベルギー
栗田路子の記事一覧
トラベルコちゃん、海外・現地口コミ、ブリュッセル
ブリュッセルのプロ栗田路子
また、近いうちに、海外に散らばるフリージャーナリストによる自主メディアSpeak Up Overseasを立ち上げたいと思っています。乞うご期待!
婦人公論、週刊金曜日などにも、ときどき書いていますので、もし見られたらぜひに。
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在ベルギー日本国大使館HPへの寄稿は、私の波乱万丈記ですが・・・
「ベルギーと私」
2014年5月5日にアップしたものですが、先日、我が家のジュリアンは天国に帰りました。
一応、ご通知まで。
日経ビジネスオンライン
大飯原発再稼動を世界はどう伝えたかhttp://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120710/234306/
日経Ecomom
「ベルギーで、自然栽培農業!」
http://www.nikkeibp.co.jp/ecomom/report/report_283_2.html
私の震災支援活動については、以下をご参照ください。
震災支援「負けるな、ニッポン」
http://mediahiroba.com/?p=1518
また、次々ご案内します!
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by multilines
| 2016-08-23 20:29
90年来初頭以来、世界の農業が依存してきた『ネオニコチノイド系農薬』。ミツバチの大量死との関連を重く見た欧州連合が、その禁止を決定したのは昨年5月。フィンランド、ルーマニアなどごく一部に例外が認められているものの、12月からネオニコなき農業がスタートしている。
2年後の見直しに向けて、農業者やメーカーばかりでなく、官僚・政治家、世界中の研究者、環境団体などが「授粉生物の保全と近未来の農業」を懸命に模索する。一方、ネオニコ農薬メーカーを抱える日本では、依然として、水田への空中散布などが盛んに行われ、政府は規制どころか緩和・推奨路線を走っている。
菜種畑のパッチワークが広がる欧州の春。2014年のネオニコ農薬禁止を受けて、この花畑に、ネオニコ種子は使われていない
菜種畑の黄色いパッチワークが見渡す限り延々と広がる欧州の春。のどかな風景だが、今年は例年にない懸念がある。近くを通ると、蜂たちがたくさんいるかと思わず見回してしまう。というのも、この菜種には、ネオニコ処理種子が使われていないからだ。農薬メーカーや養蜂業者、菜種・トウモロコシ・ひまわりなどの生産農業者を含め、多くの関係者が、今後の農業生産と蜂の動向を固唾を呑んで見つめている。
今年1月、ロンドンで開かれた「農薬が及ぼす蜂の健康への影響」と題する学会を取材した。幅広い学界や農薬メーカーからの研究者がプレゼンし、養蜂業者、政府関係者、NGOスタッフも参加した。また、インターネット回線を使って一般市民も含めた討議が行われ、活発な議論が展開された。このような学会は、今年次々と続く。4月初めにはブリュッセルで、9月にはスペインで開催の予定だ。世界中の関係者が互いの知見を共有し、この問題に解決の糸口を探そうとする意欲がひしひしと伝わる。
EU主催会議で演説するトニオ・ボルジ氏。ネオニコ禁止決定の中心人物だ。(c) European Union 2014
一方、ネオニコ農薬禁止を主導したEU委員会の保健・消費者総局も精力的に動いている。4月7日には、国際会議「蜂の健康を改善するために」が開催された。トニオ・ボルジ委員は、冒頭のスピーチで、EUが持つ全ての科学リソースを駆使し、同時に、加盟各国でもあらゆるイニシアティブを歓迎する意向を表明した。
昨年4月の禁止決定時点では、根拠となる調査研究データ不足や経済とのバランス感覚に欠ける勇み足などという声もあったが、この国際会議では、欧州の豊かな科学インフラや層の厚い科学者層が、次々と最新成果と政策提言を行った。禁止決定に深く関与したEFSA(欧州食品安全機関、リスク評価を行う諮問機関)、欧州連合自前の基礎研究機関JRC(共同研究センター、その傘下の「蜂の健康基礎研究所」がプロジェクト「Epilobee」で17ヶ国モニター調査を実施)、EU予算による多国間連携プロジェクトSTEP(欧州の授粉動物の現状と動向)などが中核となる。
同じEU内でも別の立場を代表する農業総局や欧州議会農業評議会もそれぞれの観点を発表。国際養蜂家連盟、アメリカ農務省蜂研究所、ECPA(欧州農薬メーカー業界団体)なども招かれてそれぞれの知見や立場を述べた。会議の模様は終日インターネットを介してライブ放映され、プレゼン資料は保健・消費者総局のサイトから誰でもダウンロードすることができる。28カ国が関わる巨大組織にも関わらず、大規模で多角的な知見収集の計画力、運営力、そして情報の公開性にうならされる。
STEPの中心人物S.ポッツ博士
STEPプロジェクトのリーダーを務める英国レディング大学のS.ポッツ教授(農業政策・農業開発学)に話を聞いた。教授によれば、蜂の大量死に、ネオニコ系農薬ばかりでなく、寄生虫や病原菌、気候変化や乱開発などの複数要因が関与していることは、今や関係者の共通認識となっている。
また、最近の調査報告では、ミツバチに限ってみれば、一斉に激減しているわけではないこともわかってきた。しかし、授粉生物は農業生産の75%に必要不可欠で、そのうち、ミツバチが担うのは60%ほどでしかない。近未来のバイオ燃料需要を考えれば、授粉生物は絶対不足に陥る。野生の授粉生物も含め、今、積極的な保全政策をとらなければ、地球の農業や経済全体への影響はあまりに大きい。教授は「蜂の代わりに、人間の手で授粉した高価なリンゴが買えるのは日本人くらいだから…」と苦笑した。
ところで、ヨーロッパの強い危機感に対し、なぜアメリカが禁止に動かないのか。アメリカ農務省のJ.ペティス博士は、次のように説明する。ネオニコ農薬に蜂の減少の全責任はなくとも、主犯の一角であることは疑いの余地はない。しかしアメリカでは、責任がはっきり証明されない限り一度認可された製品を禁止することは政府にはできない。
欧州では、『予防・予測原則』という明文化された法的根拠がある。「たとえ証拠が不十分でも、可逆性のない案件については、予防・予測原則を適応する」というものだ。アメリカでの政策が、ネオニコ農薬に「厳重な警告マーク」添付を義務づけるに留まっているのは、社会制度の違いなのだという。
農薬メーカーはこれまで以上に難しい立場に追い込まれている。環境派市民が政策を左右する力を持つ欧州では、EUの新しい農業政策上で、農業従事者を「緑の管理者」として再定義し、化学農薬メーカーは嫌われ者だ。業界では、農薬を「農作物保護製品」と呼び、環境に貢献する社会の構成員として、多大な予算をかけたコミュニケーション努力を惜しまない。
欧州農薬メーカー業界団体のJ-C.ボケ氏は言う。「かつて農薬メーカーは、どうせ解ってもらえないと口を閉じていた。でも、それではだめだと悟った。業界としても、また各メーカーレベルでも、授粉生物の課題に積極的に取り組み、発信しているのです」。
一連の学会や国際会議には、シンジェンタやバイエルの専門家が独自の研究成果を発表し、厳しい批判にも理路整然と反論していたのが印象的だった。2年のモラトリアム期間には、2社共同で、欧州5カ国授粉生物モニター調査を実施し、取材も受け入れるという。
「ミツバチが命を賭けて警告し、世界中の科学者や関係者を動かしている」。これは、取材中、何人かから聞いたコメントだ。日本のメディアでも、ネオニコ農薬漬けを警告する記事が散見される。しかし、欧州での学会や国際会議の席に、日本からの参加者は見かけなかった。
着々と集められる貴重なデータや知見を、リアルタイムで理解し、それを受けて追実験を重ね、世界に向けて発信し、開発や政策に反映させようという研究者や、官僚や政治家、環境市民団体が存在しないのは残念だ。
<2014年5月20日、朝日デジタル、WEBRONZA初出掲載>
蜂の減少は環境破壊へのシンボリックな警笛だ
2013年4月末、欧州連合の政策執行機関である欧州委員会は、世界に先駆けて、ネオニコチノイド系農薬3種(イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム)の使用禁止を決定した。7月には、作用の似た別の農薬フィプロニルも禁止された。一般人には馴染みのない農薬の話であるにも関わらず、動物保護・環境団体、市民団体などが活発な運動を展開した。選挙戦を控えた加盟各国政府の票取りの思惑も絡んだため、人々の関心は高く、メディアの扱いも大きかった。なぜ、これらの農薬禁止がそれほど重大な意味を持つのだろう。
発端は、2000年初頭以来世界のあちこちで報告されている、ミツバチの集団失踪(蜂群崩壊症候群)だ。「ミツバチがいないと、蜂蜜が取れない」などという単純な話ではない。ミツバチを始めとする花粉媒介生物は、農作物の花粉を運んで受粉させるという重要な役目を果たしており、こうした生物がいなければ多くの農作物は育たない。EUはこれを重く見て、2010年、ハチの保全のために最善を尽くすと宣言し、多角的な取り組みを始めていた。原因として、農薬の他、気候の変化や寄生虫などが疑われていたが、昨年、ネオニコ系農薬が主因ではないかとする論文が次々に発表され始めた。
ネオニコ系農薬禁止法案への賛成国・反対国(二度目の投票結果)
EUの厚生・消費者保護省は、EFSA(食の安全に関するEUの科学諮問機関)からのネオニコ系農薬禁止提言を受け、加盟各国代表による理事会で審議を繰り返したが、二度の投票を通じても決定に必要な特定多数決(注)には至らなかった。最終的には欧州委員会決定で禁止法案が採択され、この12月から施行されることとなった。これにより、2年間という暫定的措置ではあるものの、ネオニコ系農薬は禁止された(フィプロニルは来年3月から禁止)。《注:国の数ばかりではなく人口数で過半数となる決定条件》
■農業者・メーカーは猛反発
ネオニコ系農薬が廃止されたことで一件落着となりそうだが、話はそう簡単ではない。世界の食糧生産は、90年代前半に導入されたこれらの農薬なしには成り立たない程の依存状態に陥っているのだ。欧州ではほぼ全域で、ネオニコ系農薬で薄い皮膜を被せた種子が使われている。こうした種子は、農薬成分が植物全体に作用し、土壌内で根を食べる虫から葉や花を食べる虫まで広範囲の害虫に効果がある。農薬散布の必要がないので、農作業の手間が大幅に省ける。
失業しかねないと嘆くフィンランドの農業者マックス・シュルマン氏
欧州の農業者・農業組合連合Copa-Cogecaによれば、この禁止で最も痛手を蒙るのは、植物性油や家畜の飼料、またバイオ燃料としても重要な、菜種・原料コーン・ひまわり・綿花などの原料耕作農業だという。ある農場経営者は、「来年の収穫はおそらく3~4割減」と予想する。森林に囲まれた小さな畑で菜種を作る北欧の農業者は、「もはや廃業するしかない」と肩を落とす。
ネオニコ系農薬の主要メーカーは、バイエル・クロップサイエンス(本社ドイツ)、シンジェンタ(本社スイス)と住友化学の三社、フィプロニルはBASF(本社ドイツ)。今回の禁止決定に至るまで、これら大農薬メーカーのロビイングや抗議は非常に強烈なものだった。シンジェンタはEFSAの責任者に対し、「撤回しなければ告訴も辞さない」とさえ通告したという。(Corporate Europe Observatory, 2013年4月)
欧州農業者・農協連合は、今回の禁止による欧州経済への影響を、5万人の失業、170億EUR(2兆円強)の損失と推計する。作物の収穫激減が予想され、農産物価格の高騰などで市民生活は脅かされる。世界の原料作物受給はすでに逼迫しているので、これらの農薬禁止が欧州だけの選択であっても、コモディティ市場の高騰・食料危機・経済危機は地球規模で波及することになりそうだ。
■歓喜する環境・動物保護団体、エコロジスト市民、しかし・・・
多くの市民団体やグループが、ネオニコ系農薬使用禁止へ向けて活発な運動を展開してきた。インターネットを活用して世界の市民をつなげ、ブリュッセルやデュッセルドルフなどの要所では、地元組織と連携してミツバチ型の巨大バルーンやコスプレを用いたデモを行い、メディア・アピールを高めた。欧州では、市民の意志を無視すれば政治家が票を失う。市民の声が政治をダイレクトに動かすのだ。
強硬なネオニコ農薬禁止推進派の昆虫保護団体のシャドロー氏。本部はイングランド北部のピーターバラの片田舎にある。
ネオニコ系農薬の危険を早くから指摘し、使用禁止を働きかけてきたのは、英国に本部を置くBuglifeという昆虫保護団体だ。責任者マット・シャドロー氏が言う。
「世界の農業関係者は、農薬メーカーが送り込む農業アドバイザーの勧めに従って農薬漬けにされ、これなしでは農作物を作れないと思い込まされている。大丈夫、ちゃんと収穫はあがるさ。農作業がちょっと増える程度のこと」
皮肉にも、今回のEUの禁止法案で、英国は反対票を投じている。「英国政府は、今、経済立て直しに必死。極東のどこかの国に似て、地球規模の汚染に目をつぶっても、自国の経済を優先する。シンジェンタの主力工場は英国にあるからね」と、シャドロー氏。
農薬の新製品導入時に当局が義務付けているのは即効的な毒性テストだけで、長期的影響は考慮されない。だが、ここに来て慢性的な弊害を示唆する研究結果が続々と出ている。また、ネオニコ系農薬の不使用と、それが収穫量に与える影響についてもはっきりしたデータはない。
グルソン博士が両手で包み込んで見せてくれた蜂
「ネオニコ系農薬がどんなに効果的に害虫を殺せるかの研究は山ほどある。でも、使用をやめると収穫量が減るという研究は全くない。第一、地球上の耕作地のほとんどが、すでにネオニコ系農薬で汚染されてしまっているから、2年の暫定禁止では農薬の残留が大きく、何の変化も見られないよ」。そう語るのは英国サセックス大学のグルソン教授だ。一部のネオニコ系農薬は、毒性の半減期が3年、完全消失までに少なくとも数十年はかかるという。放射能に似た長期的な土壌汚染は、知らないうちに静かに進行してしまっていたのだ。
■米国や日本にも波及
ヨーロッパの決定は米国にも飛び火した。8月半ば、毒性の半減期の長さなどを深刻にみた米国農務省・環境保護庁は、ネオニコ系農薬に「ハチへの警告マーク」と使用上の注意書きを義務付けると発表した。欧州に比べ、ハチなどの花粉媒介生物保護にスローだった米国もとうとう動き始めた。
取材中、農業者、メーカー、研究者を前に、ネオニコ農薬で処理をした種子を見せて欲しいと頼んだ。ところが、「猛毒だから、安易に保管することは禁止されていて、見せられるものはない」という。誤って食べたりしないように、はっきり判る着色が施されているらしい。「植え損ねた種を小鳥が誤って食べたら、即死だよ。危険な万能薬なんて、依存性の高いドラッグか、利益率の良すぎる発電のようなもの。それなしでも充分行けるはずなのに、利益構造にはめ込まれたら抜け出せない、楽園のりんごだよ」とグルソン教授は話す。
日本の関係者から、ネオニコ系農薬処理種子は日本ではほとんど使われていないから関係ないと伝え聞いた。「日本で、最近、トンボがいないそうだね。トンボの幼虫は、こうした農薬汚染水に弱いから」と教えてくれたのはBuglifeのシャドロー氏。確かに最近トンボを見なくなったと感じている人は少なくないはずだ。
<2013年9月20日 WEBRONZA初出掲載>
ブリュッセル首都圏政府内務長官ブルノー・ドゥ・リル氏(当時)。ゲイ婚し、養子を迎えて幸せな家庭を持つ彼は、ゲイをカミングアウトしている政治家の一人だ。
真剣に執務中のこの方――ブリュッセル首都圏政府の内務長官(当時)ブルノー・ドゥ・リル氏。機会均等、交通、公共サービス全般を担当するエコ党の政治家だ。彼の右耳にきらりと光るイヤリングが見えるだろうか。実は、彼はゲイであることを公表し、同性結婚し、養子を迎えて家庭を築いている。
ベルギーには彼のような政治家は珍しくない。現首相エリオ・ディ・ルポ氏も社会党党首時代から、ゲイであることを公言している。
ベルギーは2003年、オランダに続いて同性結婚を合法化した。翌年には、カップルの片方がベルギー居住者であれば、外国人でも同性結婚が可能になった。年間1000組を優に上回る同性カップルが合法的に家庭を築いている。行政政策の殆どがEUに委譲されてしまっている今日の欧州だが、婚姻に関しては、加盟28カ国間での違いは今も大きい。
2013年、フランスでは同性結婚の合法化について白熱した議論がマスメディアを賑わせ、反対デモが繰り広げられた。同性愛は、欧州北部ではごく当たり前のこととなっているが、フランスのあたりを境目に南へ行くほど保守的になり、今もゲイに対して眉をひそめる国もある。
ベルギー前首相エリオ・ディ・ルポ氏(社会党、中央)もゲイであることを公けにしていた。彼は、イタリアからの移民の末裔でもある。© European Union 2014
今日ベルギー近隣はヨーロッパの十字路と呼ばれ、有史以来、ケルト・ゲルマン・ラテンなど様々な文化・言語を持った民族が行き交い、戦いを繰り返しながら、交流・交易し、独自性を尊重してきた。
「多様性」と聞けば、アメリカの十八番のように思うが、アメリカは「アメリカ的価値感」を共有する多様な人間が作る国なのに対し、ここには多様性そのものを個性として、ありのままに許容する土壌があるのだという。
「多様性」は、何も同性愛に限ったことではない。「性別、人種、宗教など、人間を属性や志向性によって、差別したり中傷したりしない――ブリュッセルは、誰もが自分らしく生きられる社会を目指している」と、ドゥ・リル氏は、にこやかに語った。彼はゲイのみならず、レスビアンやトランスジェンダーなどを含むLGBTQIと呼ばれる人々を支持している。
「ゲイ・フレンドリー・ブリュッセル」と銘打つブリュッセル市は、いったいどんな政策をとっているのだろうか。第一は、Rainbow Houseなど同性愛者の協会活動や、今では市の名物行事となったゲイ・パレード「The Pride」の後援だ。政治家がこうしたイベントに積極的に参加してロールモデルを提示することは、社会の考え方を変革する原動力になるという。
また、市として、差別や迫害を撲滅するために、年に3~4回、ホテルやレストランといったサービス産業や警察機構などで研修やトレーニングを行い、学校でセンシビリゼーション(標準化)のキャンペーンを実施する。同性愛問題だけでなく、人種差別・性差別・同性愛嫌悪を同根と考えて、それらを根絶すべく社会全体を啓蒙するのだ。
2014年5月、ブリュッセル恒例のゲイ・パレードThe Prideでは、シンボルの虹色の横断幕を政治家や有名人が引いて先頭を歩き、家族連れや老若男女8万人が「寛容」を掲げて街中を練り歩いた (c) The Pride
「The Pride」の主催者アラン・デゥブラン氏はこう説明する。
「パレードは、1996年、当時のブリュッセル市長に猛反対されながら2500人でスタートした。毎年成長し続け、2000年代初めには2万人以上が参加するようになった。
その頃、エコ政党や社会党が『同性結婚の合法化』を公約にかかげ、5月のパレードを供に歩いて勝利。新政権下の6月、同性結婚は表立った反対運動もなく成立し、実に幸運だった。
今では、パレードは当事者ばかりでなく、老いも若きも、家族連れも含め8万人もが集い、『他人と違う生き方をする権利』や『自分らしく生きる自負』を表現する春恒例の市民イベントになった」
「もしや貴方もゲイ?」と尋ねると、「いや、僕はバイだよ」とハンサムな笑顔で応えた。
ブリュッセルではゲイ・ツーリズムの推進も盛んだ。「同性愛者は、国際的で旅行好き。買い物上手なおしゃれが多い。グルメで美味しいものにはお金をかけるし、コンサートやミュージアムにもうるさい」とは、ブリュッセル観光局のゲイ市場担当フレデリック・ブトゥリ氏。
こんな観光資源を放っておく手はない。今日、ゲイの世界の人気パーティ「La Demence」は、年20回ほどの開催だが、世界40カ国から、年間35,000人を集め、開催週末のブリュッセルではホテルはどこも満室になる。
これまで、ゲイが好む都市といえば、アムステルダム、ベルリン、シチェス(スペイン、バルセロナ近郊)と言われてきたが、ブリュッセルの「差別を嫌うリベラルな気風」や「NYに次ぐ世界的グルメ性」が、ゲイ集客の強い魅力になっているとか。4年目にして、ゲイ観光客は早くも倍増。人口120万のブリュッセルで、ゲイ観光客の市場規模は、ざっと500~600万EUR(6~7億円)とされる。
『ゲイ・フレンドリー・ブリュッセル』の立役者たちは、2020年までに、パレードを欧州最大の『EuroPride』に盛り上げ、「誰もが自分らしく生きられる社会」を世界にアピールしたいと意欲満々だ。
<2014年3月11日 朝日デジタルWEBRONZA初出掲載>
難病プロジェリアを患うミヒル君の著書 2014年6月筆者撮影
「ぼくは世界中のドキュメンタリー番組で人生を語ってきた。ベルギー国内5回、フランス2回、ドイツ2回、イギリス1回、そして日本2回。たいがい楽しくやったけど、日本の取材班にだけはほとほと困らされた」。世界でも希な難病を患うベルギー人少年ミヒル君(15才)は、昨年出版した自著の中で、日本からの取材班がいかに虚構を描こうとするか、静かな怒りを込めて書き綴っている。
筆者も、テレビ番組取材のためのリサーチやコーディネートを請け負うことがあるが、そのあまりに身勝手で無謀なロケに閉口することが少なくない。そのやり方は、他国の取材班と比べても、極めて独特であり、現地社会で顰蹙を買う場合も多い。何がミヒル君を困らせたのかを検証しながら、海外各地のコーディネータ仲間、そして筆者自身の経験と照らし合わせて、日本の海外ロケの問題性を明らかにしてみたい。
■「それは僕の顔じゃなかった」
ミヒル君の病気は、全身の老化が異常に早く進行してしまう早老症疾患『プロジェリア』だ。世界で確認されている存命患者数は40名ほど。平均寿命が13才位とされること、また、ミヒル君の家族では兄妹で揃って罹患していることなどからメディアの注目を浴びてきた。
日本からのテレビ取材を受けたのは2009年のこと。取材当時、平均寿命とされる13才にそろそろ近づこうとしていたミヒル君を前に、カメラは『死の影に怯える悲壮な少年と家族』を描こうと必死だった。サッカー選手になりたいという将来の夢を語らせておいて、「でも、君に未来はないよね」と声をかける。それでも涙を見せないミヒル君を、とうとう祖父の墓まで連れて行き「もうすぐ、君もここに入るんだね、大好きなおじいちゃんに会えるね」とたたみかける。
ミヒル君はこう回想する。「ぼくの目に涙が出てきたら、彼らはズームアップして撮った。その顔を後で見たけれど、それは僕の顔じゃなかった」と。ミヒル君の父親はとうとう爆発し、「もう止めだ。偽りの姿を見せたくはない。私達家族は悲嘆に打ちのめされているわけではない。それが気に入らないなら、荷物をまとめてさっさと帰ってくれ」と叫んだという。
ここで浮き彫りにされている問題は、筆者も度々直面することだ。高視聴率を得るためのテーマや映像を安直に求めすぎるのだ。日本のテレビ界では、番組は質的評価よりも、視聴率という量的尺度が一人歩きしている。衝撃的な映像や大音響を盛り込めば、無計画にチャンネルを変える手が留まりやすくなるので数値が上がる。社会問題など映像や音声的には単調でも「知らせるべきこと」を掘り下げるような番組は、企画が通りにくく予算が付かない、と、ある制作関係者がこぼす。
■過熱する「ネタになる日本人さがし」
視聴率を稼げる定番といえば、「難病」や「残虐事件」のドキュメントものだ。見てぎょっとするような珍しい難病は絶好の題材になる。描き方は感情的で涙を誘うが、長期的な視野にたって患者やその家族に寄り添うものではない。また、あるタイプの番組がヒットすると、どこの局でも軒並み同じような番組ばかりになってしまうのも日本の特徴だろう。
近年は、「外国に暮らす日本人もの」がやたらにはやり、ひとつの番組でも複数の制作会社が競って出演候補を探すので「ネタになる日本人さがし」が激しい。制作側にとっては、出演者に通訳も頼めて安上がり。視聴率もそこそこ稼げて都合がいいらしいが、海外に暮らす日本人の間では食傷気味だ。
でたらめのヤラセとは言わないまでも、「行き過ぎた演出」がまかり通るのはいかがなものか。日本の制作陣は、ロケ地に入る前に日本で入手できる情報を基に、制作会社と局(時にはスポンサーも交え)で徹夜の会議を重ね、シナリオをガチガチに固め、それにピッタリはまる映像とコメントを撮りに来る。限られた予算と日程の中で手っ取り早く撮ろうとするので「ドキュメンタリー」とは名ばかりだ。
■台本ありきで手っ取り早く
「お土産なんか買いに行くことはない」というミヒル君をショッピングに駆り出し、普段はしないパパの出勤お見送りを小さな妹とともにやらされたという。筆者の経験したケースでは、取材を受けた大学教授が、求めている発言が出てこないと苛立つディレクターに対し、「台本があるなら、役者にその台詞を言わせればいい。私は役者ではない!」と怒鳴ったことがある。また、質問への答えが5年前の雑誌インタビューと異なっていると文句を言われた著名チェロ奏者は、「私は生身の人間で、過去とは人生観が変わって当然。あなたたちは、今の私を描きに来たのではないのか?」とあきれ返った。
ミヒル君のケースであからさまなのは、人道や倫理の意識の乏しさだ。ミヒル君に涙を出させるためには手段を選ばない。筆者はこれまでに、幼い子ども、病気や障害を持つ人、性志向上の少数派などの取材にも関わってきたが、制作側の勝手な都合で早朝や夜中まで長時間取材を続けたり、番組の本質に無関係なデリケートな質問を興味本位で繰り返したりと、人間性を疑いたくなるようなことも少なくなかった。
取材班が勤務中の警官にプライバシーに関わる質問をしつこく続け、後日、筆者が呼び出されて、執務妨害で厳重注意を受けたこともある。コーディネーターとしては、その場では指示に逆らえない。「コーディネータの分際で」と、取りあってもらえないからだ。
■疲弊する非正規社員の非常識
近年、日本の番組制作の現場担当者は、下請け・孫請けの制作会社の非正規社員がほとんどで、際限のない残業で疲弊し、思考回路をオフにして突っ走っているようなところがある。普通なら考えられないような非常識も平気で、現地の人々に大ひんしゅくを買ったり、事件や事故になったりしかねない。
諸外国のテレビ取材もみんな同じようなものなのだろうか――EUやベルギーの公的機関のプレス担当に尋ねてみた。日本の取材陣と他国の大きな違いは、流暢ではなくとも意思疎通に充分な英語ぐらいはできること。「あなた達のような通訳からパシリまで何でも丸投げできるコーディネータなんて存在しないから、自力でなんとかしてますよ」と苦笑された。ホテルや食事代は徹底してケチるそうだが、抜け目なく辛抱強く取材の瞬間を狙うという。「やり直し」は利かない真剣勝負と心得ているからだ。
難病を負って生きる15才のミヒル君の人生には「無茶」は利かないし、「やり直し」ができるわけもない。研ぎ澄まされた冷静な洞察力をもって一分一秒を大切に生きるだけだ。著書の中にネガティブな文言はほとんどないだけに、日本の取材班について滲み出る不快だけが異様に目立っている。
日本の海外番組制作者はこれを真摯に受け止め、海外ロケのあり方を見直すべきではないか。そう痛切に感じている。
<2014年7月15日 WEBRONZA初出掲載>