パッシブハウスのコンセプト図 (c)2015 Kumiko Sawada
欧州のエネルギー料金は高い。電気代も灯油代もガソリン代も、日本より断然高い。それでも、環境を守るぞと本気で決めてしまった欧州市民。それならどうするのか。その答えのひとつが『パッシブハウス』だ。
太陽光を最大に取り入れる南に面した大きなガラス窓――理想的なパッシブハウスを建設中の友人一家。
「パッシブ」とは、英語のpassive、つまり「消極的な」「受け身な」といった意味。ひとことで言えば、「外からエネルギーを買わなくてすむ家」。太陽光、電化製品や人間が出す熱を最大活用して、エネルギーをほぼ自給自足する。欧州では、大量生産・大量消費時代の終焉とともに省エネ住宅の研究が始まり、80年代終わりにドイツとスウェーデンの学者たちによって「パッシブハウス」というコンセプトが登場した。
2000年以降、欧州連合がこれを後押しして、欧州規格CEPHEUS(Cost Efficient Passive Houses as European Standard)を策定。住宅、建材、窓サッシ、空調設備などの研究開発が精力的に進められ、民間企業が続々と参入をはじめる。今や、各国各地の行政が、パッシブハウスを義務づけたり、補助金を付けて奨励したりしていることもあって、見本市やショールームでも注目の的だ。光熱費がほとんどかからないなんて夢のようだ。
パッシブハウスの原則は、従来のような冷暖房設備がなくても一年中快適にすごせる家―いかに取り込んだエネルギーを逃がさず活用するかに尽きる。基準では、暖房、給湯、電化製品のためのエネルギー需要が1平方メートルあたり50kWh以下、従来の家の6分の1以下で済む計算になる。
三重ガラスと頑強な樹脂サッシの厚みは15㎝以上もある。
そのためには、太陽光エネルギーを最大限に取り入れるための南向きの大きなガラス窓、家中に暖気や冷気を循環させる空調設備、完璧なまでの断熱性・密閉性が鍵となる。それでもわずかに必要な電気は、ソーラーパネルなどで自家発電する。それぞれの建材は、断熱性、密閉性、熱伝導率などの値で競う。たとえば、窓は、断熱性能と密閉性に優れた分厚い樹脂サッシをフレームにした、アルゴンガス入りの三重ガラスなどが標準。窓サッシの厚みだけでも15cm以上もある。
紫外線を遮断するガラス、太陽光を除けながら景色は楽しめる遮光性シャッターなども活躍。屋根や壁に施す断熱材だけでも30㎝もあるから、壁の厚みは50cm以上。そして、少しの隙間風も許さない入念な接合部分への配慮。これで冬は暖気を、夏は冷気を逃さない。「家はまるごと魔法瓶。人間一人だって100Wの大切な発電機なんだよ」とは、理想のパッシブハウスを建設中の友人の弁だ。
ベルギーでは、2010年から、新築の住居は認証機関による実測をもとにしたエネルギー消費値が年間170kWh/平方メートル以下と決められた。今年始めから、家を売ったり貸したりするには、これをもとにアルファベットで示したスケール(A++からGまでの9段階)を公示することも義務付けられた。新築ならスケールB以上、スケールE〜Gでは、どんなに安くても借り手や買い手はつきにくい。
日本でも、2012年頃から、経産省や国土交通省で「ゼロエネ住宅」が推進されているようだが、「この装置を取り付けたら、費用をいくらまで補助」という気休め的アラカルトでは、メーカーや工務店を支援するだけ。「ドイツ式」や「アメリカ式」を売り込むメーカーも目につくが、高温多湿の地震大国に、欧米で開発されたパーツが役立つのかも疑問だ。
化石燃料や核から、再生可能エネルギーへと舵を切った欧州。持ち前のケチケチ精神をもとに、自衛して生きるためのアイデアやイノベーションに未来をかける。日本でも、『もったいないお化け』にご登場いただき、日本らしい『パッシブハウス』の研究開発にまい進した方が、経済もお財布も喜びそうだ。
外気を取り入れ、フィルターしながら熱交換して各部屋に送る空調設備。
(PUNTA掲載 2015-05-01)