ベルギー発、日本人が開発した
和食に合うビール「欧和」。
「欧和」の試飲販売を行う礼欧さん
2006年、ベルギーで、「和食に合うビール」をコンセプトに、オリジナルビールが誕生した。その名は、「欧和」。現在、主にブリュッセルの日本料理店でサーブされており、中断されていた日本への輸入販売が、この3月にJALUX社により再開されるようになる。開発したのは、ベルギー在住の日本人醸造家、今井礼欧さんだ。ふとしたきっかけでベルギーにわたり、未知なる領域のベルギービールに挑戦してきた礼欧さん。どのようなこだわりで「欧和」を開発したのか、さらなる夢はいかなるものか。礼欧さん本人を直撃した。
「もともと、人付き合いは得意なほうではなかったんです」と、照れながらも、自身の過去について語ってくれる礼欧さん。和やかな場をつくり出すアルコールの力に魅せられたのは、学生時代のサッカー観戦がきっかけだった。大学では、化学を学ぶかたわら「カクテル研究会」を立ち上げ、バーテンダースクールに通い、就活の志望先はアルコール飲料メーカーに絞った。晴れて大手ビールメーカーへの就職を果たし、デュッセルドルフに派遣される経験も積んだ。しかし、数年後には退職を決意し、「いつか自分の酒をつくろう」と、次のステップを模索。
選んだのは、世界で唯一、蒸留や発酵を学べるスコットランドの大学院だった。これが、欧州での可能性を開く鍵となった。余談であるが、移民や外国人就労に厳しいEUでも、欧州の修士以上を持つ専門職には寛容だ。後日、礼欧さんにドイツやベルギーで就労許可がおりたのもそのため。欧州での修行を夢見る日本人は後を絶たないが、実は、学歴が道を開くことはあまり知られていない。
さて、大学院終了後、「世界中のアルコールを現地でつくりたい」と願った礼欧さん。ドイツのビールづくりからスタートした後、ほどなく、隣国ベルギーへ渡った。「もともと、『ベルギー好きが高じてベルギーへ』というわけではなかったのです。でも、やってきてみると、ドイツに比べてビールの素材に自由度があるし、ランビックという地ビールもある。次第に、日本人の自分ならではのビールづくりに挑戦したいという考えが芽生えたのです。」ドイツには純粋令という法律があり、大麦と小麦の麦芽以外を使うと、ビールのカテゴリーではなくなってしまうのだ。しかし、ベルギーでは他の穀物やフルーツを使っても、ビールという品名で通る。そこに目をつけた礼欧さん、かねてから考えていた「和食に合うビール」をコンセプトに、日本らしい素材を使ったオリジナルビールの開発に挑んだ。幾度の研究と試飲をかさね、たどり着いた素材は「米」。こうして、2006年、「欧和」ビールが誕生した。この名は、「礼欧」と「欧州」、そして「和食」と「和み」にちなんでいる。
ベルギーにわたって早6年。礼欧さんは、1~2ヶ月に1度のペースでベルギー東部にある知り合いの醸造所に出かけ、そこの機器を借りて仕込んでいる。それ以外は、自宅近くの作業場でひとり黙々、瓶詰め、ラベル張り、梱包などを行っている。家族をもたず、学校や会社に帰属しない一匹狼の礼欧さんにとって、ベルギー社会との壁がないわけではない。
それでも、ビールづくりの夢を極めるべく、日々挑戦している。「さらなる夢は、『欧和』に続くオリジナルビールを開発し、『創作和食とそれに合うビール』をコンセプトしたブルワリーレストランを開くこと」と、礼欧さん。「仕事に忙しくしていても、夜や週末はひとりで寂しく食事、なんてこともあるので、夢の実現に協力してくれる女性がいたら」とも笑う。
「欧和」は、しばらく日本での輸入販売は中断されていたが、この3月下旬からJALUX社によって再開される。同時に、ベルギーならではのランビックに、ゆずや桜の葉など、和の食材を漬け込んだオリジナルランビックも取り扱われる予定だ。ベルギーで日本人がつくる「和」のビールが、日本のアップスケールな和食店で、どのように受け止められるか注目したい。
日本に輸入販売される「欧和」(左)と、和のフレーバーのランビック(右の2種)。
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